▲写真=UTOIMAGE

 フィリピンの静かな地方都市「バンバン」が突如として注目を集めている。首都マニラの北方に位置するバンバンは、稲作農業を主とする小さな地方都市だ。フィリピンに住む韓国系の人々もあまり訪れることはないという。

 バンバンが注目を集めるきっかけとなったのは、35歳のアリス・グォ市長に向けられたある疑惑だ。グォ市長はロングヘアをなびかせて公の場でピンク色の服を好んで着るなど、従来の政治家とはかけ離れた姿を見せてきた。常に大きな眼鏡をかけ、ほほ笑みをたたえた顔は信頼感を与えた。さらに、外国人なまりのないタガログ語を現地人らしく話し「自分の足で駆け回る若い政治家」のイメージを築いてきた。そのようなグォ市長に「中国のスパイ」疑惑が浮上し、フィリピン全土の注目が集まっているのだ。

 英国BBCが19日(現地時間)に報じたところによると、今月初めにグォ市長はフィリピン上院の聴聞会に呼ばれたが、それまでグォ市長の過去について誰も大きな関心を抱いていなかった。

 事の発端は今年3月、当局がバンバンにあるオンラインカジノの施設を摘発したことだった。当局の調べによると、この施設は『ロマンス詐欺』の犯行拠点だったことが分かった。施設には数百人が監禁されており、その数百人が(ネット上で)異性に接近し、カネをだまし取るという犯行を繰り返していた。当局はこの施設から中国人202人とその他の外国人73人を含む約700人を救出した。

 現地で「Pogo」と呼ばれるオンラインカジノ施設の客は、主に中国人だった。ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領の在任期間中は、同大統領が中国と緊密な関係を築いていたためカジノも繁盛していたという。ところが、マルコス大統領が就任すると、南シナ海の領有権問題をめぐって中国との間で緊張が高まり、Pogoも厳しい調査を受けた。

 今回摘発されたバンバンの「Pogo」は、グォ市長のオフィスのすぐ裏にあった。およそ8ヘクタールに達する敷地には、食料品店、倉庫、プール、ワインセラーまであった。スタッフらはコンピューターが並んだテーブルで詐欺の犯行に及んでいた。

 この敷地の半分を、グォ市長が所有していることが分かった。残りの半分は2年前にグォ氏が市長選挙に出馬した際に売ったという。グォ市長は自身の名前で登録されたヘリコプターも保有していたが、土地と同様にかなり前に売却したと主張した。

 その後、グォ市長の財産が実は「中国の資産」ではないかとの疑惑が浮上した。グォ市長の過去について、知られていることがほとんどなかったからだ。フィリピンの選挙管理委員会は、グォ氏がバンバン市に有権者登録をしたのは2021年、市長に当選するわずか1年前だったと明らかにした。

 また、グォという姓は中国にルーツのあるフィリピン人の中でも多い姓ではない。グォ市長は22年の選挙演説で「母はフィリピン人で、父は中国人」と述べていた。

 グォ市長は上院の聴聞会で「私の出生証明書は17歳のときにようやく登録された」と主張した。病院ではなく自宅で生まれたからだという。また、学校にも通っていなかったと話した。養豚場を経営していた自身の家で、ホームスクーリングを通じて学んだとのことだが、先生の名前は1人しか挙がらなかった。

 聴聞会が終了した後、リサ・オンティベロス議員は「グォ市長の答弁が不透明でとても驚いた」「グォ市長のようなミステリアスな背景を持つ人たちは、中国のために働いているのではないだろうか? フィリピンの政治に影響力を行使できるよう中国が植え付けた『資産』なのではないだろうか」と疑問を投げ掛けた。聴聞会に出席した別の上院議員も「グォ市長は我々の質問に『分からない』と答えるばかりで、自分がどこで暮らしていたのかすら覚えていないと言っていた。とても信じられない」と話した。

 騒動が拡大すると、大統領まで加勢した。マルコス大統領は16日「誰も彼女のことを知らない。我々は彼女がどこから来たのかを知るために、移民局と共に市民権に対する問題を調査している」と述べた。

 これに関連し、フィリピン内務自治省(DILG)は、市長の職務停止を勧告した。DILGは今月5日、タスクフォースを立ち上げてグォ市長を調査した結果、グォ市長に深刻な不法行為が発見されたとして、市長の職務停止に言及した。

 選挙管理委員会と法務省もグォ市長に対する調査に着手しており、不法行為が確認されればグォ市長は公職を解任される可能性がある。

イ・ガヨン記者

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