1986年に行われたメキシコW杯(ワールドカップ)の準々決勝で、アルゼンチンのマラドーナはイングランドを相手に有名な「神の手(Hand of God)」事件を引き起こした。ハンドながらもゴールを決め「頭と『神の手』が一緒につくり出したゴール」と主張。盗っ人たけだけしい態度で対応した。実際、事の発端は主審による誤審にある。主審だけではなく、線審までもそのシーンを見逃したために発生した喜劇となった。

 もし、現在のようなビデオ判定(VAR、Video Assistant Referees)が存在していたとすれば、どうなっていただろうか。ゴールは当然無効となり、マラドーナは故意にボールに触れたため、レッドカードで退場させられていたはずだ。アルゼンチンはこの決定的な誤審のおかげで、イングランドを2対1で下し、準決勝進出。結局W杯制覇という華々しいフィナーレを迎えることとなったが、VARがあればイングランドが勝っていた可能性が高い。アルゼンチンとしては、チーム戦力の50%以上と言われていたマラドーナの退場後の空白を埋めることは困難であったに違いない。

 結局のところ、スポーツも「資金次第」といった皮肉もあるが、いったん試合が始まれば、目の前で不正が行われにくいといった長所もある。ところが誤審という問題が、こうした期待を裏切ることもあった。「誤審も試合の一部」という訓戒は、主に勝ったチームが口にする詭弁(きべん)に過ぎない。以前は明白な誤審があっても、審判が言い張ればそれで十分だった。しかし、技術が発展するにつれ、こうした不条理はなくなりつつある。数十個に及ぶカメラとセンサーが、競技場のあちこちで人間の能力では到底捉え切れない領域までを解読し、正確な判定を下している。サッカーから野球、バレーボール、バドミントン、バスケットボール、はたまた競馬に至るまで、「ロボット審判」を活用して判定の正確性を高めようとする試みは拡散している。

 最近プロ野球では今年導入した「ロボット審判」、自動投球判読システム(ABS、Automatic Ball-Strike System)を巡り、選手たちの不満が爆発した。ハンファの投手、柳賢振(リュ・ヒョンジン)やKTの打者、黄載均(ファン・ジェギュン)が代表的だ。プロ野球選手としての経歴だけでも18年、17年と、それぞれ業界が誇る大先輩だ。同じように不平をもらすが、その内容は正反対だ。柳賢振はストライクをボールに、黄載均はボールをストライクに取ると抗議している。

 柳賢振は渡米する前の2012年、「人間」が審判を務めていた頃、投球中のストライクとボールが占める割合はそれぞれ64.5%、35.5%だった。今シーズンは68.3%、31.7%と良くなっている。ロボット審判がストライクの判定をより多く出しているわけだ。韓国プロ野球の投手の全投球数に占めるストライクとボールの割合も、今シーズンは62.9%、37.1%だ。ここ5年間で61.8-63.6%、36.7-38.2%と、さほど目立った動きは見られない。変わったことがあるとすれば、柳賢振が今シーズン2勝4敗、防御率5.65と、デビュー以来最悪の成績だという点だ。黄載均も、これまでは三振1個当たりに占める四球は平均0.4-0.6個だったが、今シーズンは0.5個だ。判定により不利な結果となっているとは言い難い。ただ、黄載均も打率2割5分5厘、本塁打ゼロ、10打点と、2010年以降で最も低調な滑り出しとなっている。こうした数値だけでは全ての状況を説明することはできないが、何かがうまくいっていないため、外部のせいにしている感が否めない。精神的に軽くなるかもしれないが、状況は決して好転しない。斗山のイ・スンヨプ監督は「嫌な思いになったり、否定的に捉えたりすると自分が損するだけ。早めに認めて利用できる部分は利用しなければならない」と促した。これこそ正しい意見でないかと思う。

イ・ウィジェ記者

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