寄稿
LINEヤフー問題はサッカー韓日戦ではない【寄稿】
2011年に東日本巨大地震が起きると、ネイバーの日本事業は存廃の岐路に立たされた。10年近く力を入れてきた日本での検索エンジン事業が何の成果もなく遅々として進まない状況で、日本全土に被害を及ぼす大災害に見舞われたからだ。ネイバー社員は日本支社の建物が余震で揺れるたびに、このままでは死ぬかもしれないという恐怖感に包まれたという。創業者の李海珍(イ・ヘジン)氏は2019年に行った講演で、「社員を韓国に帰してしまえば、日本事業の再開が難しく、社員が現地に残れば、さらに大きな危険に陥らざるを得なかった。プレッシャーのせいでオフィスで泣いたこともあった」と振り返った。こんな差し迫った状況でモバイルメッセンジャー「LINE」が誕生した。地震で電話は固定回線も携帯も不通になったが、インターネットは使えることに着眼し、携帯で安否を確認し合うことができるメッセンジャーを開発したのだ。こうして登場したLINEは、日本国民の80%以上が使用する国民的メッセンジャーに成長した。韓国製プラットフォームにとって唯一の海外進出事例として記録されるだろう。
しかし、LINEで利益を上げることは別次元だった。LINEがを活用して収益を上げるにはショッピング、金融、娯楽などさまざまな付加サービスを導入しなければならないが、そのたびに日本政府の規制に加え、外国企業に排他的な目に見えない障壁に直面。日本のポータル最大手、ヤフージャパンとも激しい競争を繰り広げなければならなかった。実際にLINE部門は決済サービス「LINEペイ」普及のためにヤフーと出血競争を戦ったため、2019年には売上高2兆4000億ウォン(約2760億円)に対し、5000億ウォンを超える赤字を出し、2020年にも赤字規模を減らすことができなかった。
こうした状況で、ネイバーの李海珍氏とヤフージャパンの孫正義会長が見いだした突破口が、ラインとヤフージャパンの統合だった。李海珍氏が2000年に自らの出資が希薄化することを覚悟で「ハンゲーム」との合併を通じ、韓国国内のポータルサイト企業との競争で優位に立ったように、日本でも敵との統合という勝負に出た。互いの強みを生かし、実質的な経営権はヤフー側が行使し、システム運営など技術開発はネイバーが引き受けるという役割分担を行った。両社の統合は困難な状況を打開する起爆剤の役割を果たした。その後3年でLINEヤフーの売上高は60%、営業利益は2倍近くに成長し、ネイバーの時価総額は8兆ウォンを超えた。
しかし、LINEが日本のモバイルインフラで市場支配力を拡大すると、日本国内では経済安全保障の見地からデータ主権とデジタルインフラに対するコントロールを強化すべきだという声もますます高まった。自国民の個人情報と貴重なデータを韓国側が無料で利用したり悪用したりする恐れがあるにもかかわらず、それをなぜ放置するのかという指摘だ。欧州連合(EU)が域内のデータを守るため、最大の友好国である米国のビッグテック企業に対する強硬な規制法案を打ち出したのも同じ理由からだ。さらに日本の右翼は「対日強硬派だった文在寅(ムン・ジェイン)政権の広報首席秘書官が元ネイバー副社長出身だ」とまで批判した。さらに、2021年以降、LINEヤフーで個人情報流出などさまざまなセキュリティー事故が相次いだことで、そうした主張がさらに強まった。インターネット専門家は「もし日本企業がカカオトークのシステム運営を引き受け、セキュリティー事故が起きたとすれば、韓国ではさらに大きな騒動になっただろう。アリ、TEMUなど中国の電子商取引(EC)のユーザーが急増し、韓国国民のデータが中国に持ち出されていることも気になる」と話した。
今回のLINE問題は、LINEヤフーの資本関係を見直すよう求める日本政府の粗雑な官治がきっかけだったが、今回の事案は根本的に韓国側が何が何でも勝たなければならないサッカー韓日戦とは次元が異なる。21世紀の原油と呼ばれるデータの所有・統制権、ネイバーの今後のビジネス戦略、韓日米によるデータ共有問題など数多くの要素について、冷静に得失を計算しなければならない。ネイバーはこれを機に事業の拡張性に限界があるLINEを売却し、人工知能(AI)検索やクラウド分野に集中投資することが得策かもしれない。ビジネスに裏切りはない。選択があるだけだ
趙亨来(チョ・ヒョンレ)編集局副局長