「飲酒運転・当て逃げ」をして警察の捜査を受けているトロット(韓国演歌)歌手キム・ホジュン(33)が20日、出国禁止になった。警察はキム・ホジュンをはじめ、所属事務所代表ら関係者たちが犯行を組織的に隠蔽(いんぺい)していた点を集中的に捜査している。キム・ホジュンは事故を起こしてすぐに逃走し、その事実が明らかになった後も所属事務所の関係者たちと口裏を合わせ、ウソをついて証拠を隠滅した。犯行を否認し、予定していた2公演を強行した。この過程で、キム・ホジュンのファンたちは「有罪が確定してもいないのにひどいのではないか」とキム・ホジュンをかばった。どれも、これまではなかったことだ。キム・ホジュンは同日、弁護人を通じて「とてもつらい」と心境を述べ、自ら警察に出頭する意思を明らかにした。だが、警察は「準備ができたら呼ぶ」として、待つように言った。当局の関係者は「検察が呼んでもいないのに『セルフ(自ら)出頭』したある政治家のことを思い出す」と語った。キム・ホジュンが今回の事態で見せたウソ、ゴネ、同情集め、元検察庁高官の弁護人選任という「司法リスク対応」手法は、韓国社会全般の弊害の縮図だという見方もある。少数の熱狂的支持者からなる「ファンダム」の弊害が政界にとどまらず、韓国社会全般に広がっているということだ。

 専門家らは「熱狂的な支持者集団(ファンダム)だけを対象に、自身のことを『殉教者』『犠牲者』であるかのように演出し、同情を生み出すことは、韓国の政界だけでなく芸能界など一般社会でも『ニューノーマル』になっている」と分析している。ソウル大学心理科学学部心理学科の郭錦珠(クァク・クムジュ)教授は「いったんファンになったら、自分の決定に合う情報だけを受け入れる確証バイアスが現れる。政治家の支持者と芸能人のファンの心理構造は本質的に同じだ」と言った。

■韓国政界に似ている「防弾戦略」

 キム・ホジュンはファンクラブに「こんなに多くの家族(ファン)たちがつらい思いをしているのに」「事情聴取が終わればここの家に帰る」などのメッセージを書いた。これについて、「個人の不正により有罪判決が出た政治家たちが『非法律的名誉回復』に言及したことが思い出される」という声がある。だが、キム・ホジュンのファンたちは「(キム・ホジュンが)どんなにつらかったことか」「私たちは何があっても応援する」と言っている。

 容疑をいったん否認するのも政界と似ている。キム・ホジュンが当て逃げしていたことが犯行から五日後に発覚するや、その関係者は「飲酒は絶対にしていない」と言った。そして、遊興飲食店を訪れていたことが明らかになった時は、「酒の入ったコップを口に当てたが、飲んではいない」「お茶だけ飲んだ」と言った。当て逃げ現場から逃走した理由についても、「パニックになって」と説明した。疑わしいことがあるのは明白なのに、ひとまずゴネながら時間を稼ぎ、18日と19日に慶尚南道昌原市内でコンサートを強行した。その後、飲酒運転・当て逃げを認めて出国禁止にまでなったのにもかかわらず、23日と24日のソウル公演も行うという。政治評論家のイ・ジョンフン氏は「司法リスクを抱えている(韓国最大野党)共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)氏(現代表)が『ケッタル(李代表の熱烈な支持層)』を足掛かりに補欠選挙・党代表選挙に出馬し、『防弾免責特権』を手にした戦略と似ている」と語った。キム・ホジュンは昌原公演で23億ウォン(約2億6000万円)を稼ぎ、ソウル公演のチケット収入も40億ウォンに達するという。公演収益と「量刑減軽」という二兎(にと)を追う戦略とみられる。

■「元検察庁高官」動員して世論戦略

 キム・ホジュンの弁護人であり、検察総長(日本の検事総長)職務代行を務めた趙南寛(チョ・ナムグァン)弁護士は「20日午後、キム・ホジュン氏が自ら出頭して事情聴取を受け、国民に見解を表明する予定だったが、警察側の事情で事情聴取が延期された」と述べた。だが、警察やその周辺からは「何とか拘束を免れようとする浅はかな世論戦略だ」という反応が出ている。警察関係者は「今までの虚偽の供述や証拠隠滅でも十分に悪質なのに、今になって事情聴取に誠実に臨むふりをしている」と言った。だが、キム・ホジュンはマネージャーが自身の服を着て「身代わり出頭」した過程を認知していた状況が次々と明らかになっている。

■ファン集団に依存するうちに国民の常識からかけ離れる

 キム・ホジュンは真実を打ち明け、許しを請うことができる時間が十日間もあったが、ウソ・ゴネ・同情集め・元検察庁高官の弁護人選任といった「司法リスク対応」の論理で一貫してきたため、国民の大多数の怒りを買った。ファンダムに頼って犯行の責任を回避しようとしたところ、かえって一般国民の常識と道徳基準からかけ離れてしまったということだ。成均館大学社会科学学部社会学科の具廷禹(ク・ジョンウ)教授は「『とにかく団結しなければ生き残れない』というような集団主義世論を一部の強硬なファンが主導する一方で、正常な大多数のファンはかえって離れていっている」と語った。大衆文化評論家のチョン・ドクヒョン氏は「このようなやり方でキム・ホジュンが逮捕・拘束され、重い刑を言い渡されれば、ファンが受ける衝撃はいっそう大きいだろう」と話す。仁川大学社会科学学部政治外交学科のイ・ジュンハン教授は「ファンたちは政治家や芸能人を偶像に祭り上げ、熱狂するため、『偶像』になった本人たちはあらゆる非常識な行動をしていても気づかない。その代価は韓国社会全体が受けることになる」と言った。

■キム・ホジュン側の今後の弁論戦略は?

 ソウル警察庁の趙志浩(チョ・ジホ)庁長はこの日の記者懇談会で「事故前に飲酒していたという疑いは強いが、具体的な量は確定していない状況だ。捜査協力の可否と証拠隠滅の恐れが(拘束令状申請に関して)重要な判断要素になるだろう」と語った。警察は、キム・ホジュンが飲んだ酒の種類や体重などを計算し、時間の経過によって血中アルコール濃度を類推する「ウィドマーク(Widmark)法」を使う方針だ。しかし、この方法は法廷で飲酒の証拠として認められないケースも少なくない。キム・ホジュン側も、警察が事故直後に飲酒の直接的な証拠を確保できていないことを知っている。キム・ホジュンが飲酒の事実を認めたのも「世論戦略」のために過ぎず、法廷では「飲んだが血中アルコール濃度0.03%に達するほどではなかった」などと飲酒運転疑惑を巧妙にすり抜ける可能性があるということだ。

コ・ユチャン記者、ク・アモ記者、チャン・ユン記者

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