尹錫悦政権
政策失敗の教科書となった韓国の「海外通販禁止令」
韓国政府では、国家統合認証マーク「KC認証」を受けていない製品について、海外通販での購入禁止を推進したが、19日に撤回した。今月16日、子ども向け製品、電気・生活用品、生活化学製品の80品目についてこの措置を適用すると発表したが、その三日後に撤回したものだ。年間取引額が6兆7000億ウォン(約7708億円、2023年)に達するなど、MZ世代を中心に海外通販に慣れている消費者たちが強く反発したためだ。
韓国政府は14機関が参加する大規模な「海外通販総合対策タスクフォース(TF=作業部会)」を立ち上げ、対策を打ち出したが、国内の消費者の反発がこれほどまでに激しいとは予想できなかったという。専門家らは「今回の『海外通販禁止令』撤回は、『政策失敗』の教科書に載せる代表的な事例に値する」と語った。
国務調整室は19日、韓国政府ソウル庁舎でブリーフィングを開き、「政府は、安全性調査の結果、危害性が確認された製品についてのみ輸入を制限していく方針だ。80品目に対し、事前に海外通販による購入を遮断・禁止するというのは全くもって事実ではない」と述べた。 しかし、その三日前の16日、韓国政府は「KC未認証80品目の海外通販購入禁止」を発表し、この措置を来月中に実施するとしていた。
韓国政府が当初打ち出した「海外通販」対策は、「安全性が立証されていない低価格の中国製品が海外通販を通じて大量に輸入され、韓国の消費者・企業・自営業者が被害を受けている」との指摘を受けてのものだった。昨年末から「AliExpress(アリエクスプレス)」「Temu(ティームー)」「SHEIN(シーイン)」など、いわゆる「アリティシー」と呼ばれる中国eコマース企業を通じて韓国に入ってくる低価格の中国製品が急増している。しかも、一部の中国製品からは人体に有害な物質が相次いで大量に検出されている。
韓国政府は今年3月、国務調整室・産業通商資源部(省に相当)・環境部・食品医薬品安全処、科学技術情報通信部・放送通信委員会・関税庁など14機関が参加する大規模な「海外通販総合対策TF」を立ち上げて対策作りに着手した。この時、韓国政府が焦点を置いたのは「消費者の安全性確保」「消費者の被害予防および救済強化」「韓国企業の競争力強化」だった。
海外通販を通じて韓国に入ってくる中国製品の安全性検証を強化し、海外通販での購入による輸入を制限する方向に主な焦点が合わされた。「海外通販での個人購入により韓国に入ってくる外国製品には韓国の税制や認証規制が適用されず、韓国の流通業界や自営業者が逆差別で被害を受けている」という指摘も影響した。
その結果、TFでは80品目を選んで海外通販での購入を事実上禁止するという対策を打ち出した。KC認証を受けた製品は海外通販で購入できるという条件を付けたが、このような条件は消費者たちの海外通販での購入阻止につながる可能性があった。韓国政府は14日のブリーフィングで「個人的に使うための物品の海外通販購入を禁止するということだ。こういう方々もKC認証を受けた製品を買うことはできるが、事業者でないため、コスト・手続き・時間をかけてKC認証を受けるのは難しいだろう」と話していた。
これに対して、韓国政府の一部からは「『コストパフォーマンス』のいい中国製品が消費者の低価格品に対する需要を満たし、国内の輸入物価が下がる効果がある」という意見もあったが、それでも「消費者の安全のほうが優先」という論理が優勢だったという。「物品の自由な流れを人為的に阻もうする試みは必ず副作用を引き起こすだろう」との懸念もあったが、結論は「KC未認証80品目の海外通販購入禁止」になったとのことだ。
対策が発表されるや、80品目を安価な海外通販で個人的に購入してきた消費者たちは強く反発した。その反発の強さは韓国政府の予想を上回る水準だった。ある専門家は「政府は海外通販市場の状況や国内の消費者がどのように反応するかなどをろくに検討していなかった。典型的な政策失敗だ」と言った。
騒動が広がると、韓国政府は「『海外通販シャットアウト』までは計画してはいない」と釈明した。韓国政府関係者は「今回の対策は国内の消費者の安全に焦点を置いて推進されたもので、国民がこれを『海外通販での購入の全面禁止』だと受け止めるとは予想できなかった」と話す。国務調整室の李政垣(イ・ジョンウォン)国務第2次長(次官級)は19日のブリーフィングで、「(16日の)最初の発表時、安全性を強調して説明したため、実際の内容が正確に伝わらなかった。理由はともかく、国民を混乱させてしまい大変申し訳ない」と述べた。
金耿必(キム・ギョンピル)記者