▲9日、ソウル竜山の大統領室庁舎で行われた就任2周年記者会見で、英語で質問するロイター通信のジョシュ・スミス特派員。/NEWSIS

 もし、ワシントン駐在の特派員が、英語をうまく操れないせいで英語での取材ができず、バイデン米大統領やトランプ前米大統領(共和党の次期大統領選候補)に質問する絶好のチャンスに英語で質問できなかったとしたら?

 東京特派員が東京で日本語ができず、グーグルの自動翻訳やパパゴ(韓国ネイバーの翻訳サイト)に頼ってばかりで机に張り付いているだけだったら? パリの特派員がフランス語を一言も理解できず、通訳者がいないと取材も何もできないとしたら?

 韓国と韓半島、北東アジア情勢を取材するためにソウルに派遣された特派員が、韓国の主要日刊紙も読めずに英字新聞ばかり探して読んでいるとしたら?

 現場の最前線で直接会って、質問して話を聞いて、それを文章にするのがジャーナリズムの基本原則だと考えれば、このような特派員は決して良い点数はもらえないでしょう。

 私はソウル中心部の光化門に勤務していた時、チャンスを見つけては欧米圏の新聞・テレビ・通信社のソウル特派員たちと会い、いろいろな話を聞くことを楽しんだものでした。大学でジャーナリズムを専攻したため、ジャーナリズム先進国の記者たちから何かしら学べるだろう、という漠然とした期待があったからです。

 実際に、ジャーナリストとしてのプライド、黒い髪が白髪になるまで突き詰める粘り強さ、探究への情熱、専門性などを外信の記者たちから感じることができました。ある特派員は、60歳を過ぎるまでソウルにとどまり、韓国の重要な政治事件の現場を肌で経験し、並の韓国人記者よりも韓国の政治に詳しくなっていました。平壌で金日成(キム・イルソン)主席に会ったというエピソードを明かし、実際に撮影した写真を見せてくれたのですが、この人の本当の正体はいったい…と首をかしげたくなるほどでした。

 しかし、全員とは言いませんが、ソウル駐在の外信記者は韓国語がほとんどできないケースが大半でした。「アンニョンハセヨ(こんにちは)」「コマッスムニダ(ありがとうございます)」「オルマエヨ(いくらですか)?」「チョヌン ジェイク(仮名)イムニダ(私の名前はジェイクです)」、彼らの韓国語はほとんどこれらの域を出ませんでした。

 米国の代表的なニュース専門放送局C社の本社から派遣されたソウル特派員は、韓国の新聞を渡してもタイトルすら読めないほど、韓国語が全くできませんでした。そのためこの放送局は、いわゆる「黒髪の外信記者(外国系メディアに勤務する韓国人記者)」を雇用し、本社の記者よりはるかに低い給料で翻訳、通訳、取材、交渉、動向把握などをさせていました。

 英米圏の某有名放送局も全く同じでした。かつてこの放送局の外国人記者は、ツイッター(現:X)にたびたび韓国文化を見下すような投稿をして物議を醸していました。ところがこの記者は、ソウルに3年以上も駐在したのに、着任したときから韓国を離れるまで韓国語が全くできないままでした。

 外信記者のほとんどは、韓国人に会う場合は主に英語を話せる人に会っているのですが、実はこうした機会もあまりなく、大抵はソウルに住む外国人と交流しながら韓国社会を経験しているのです。

 今月9日、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の記者会見が行われた時も、ソウル駐在の外信記者たちの素顔があらためて露呈しました。記者会見で4人の外信記者が質問をしたのですが、韓国語で質問できたのは日本の新聞記者1人だけで、残りの記者は韓国語で質問することができなかったのです。

 ロイター通信のジョシュ・スミス記者は「アンニョンハシムニカ」と冒頭に韓国語で言っただけで、その後は英語に切り替えて質問しました。2番目に登場したフランス通信(AFP)のキャサリン・バートン記者は、韓国語で一言も話すことなく英語で質問を投げ掛け、BBC放送のジーン・マッケンジー記者も流ちょうな(?)英語で質問しました。

 「いやいや、英米メディアの記者が英語で質問することは全く問題ではない」と考える人もいるでしょう。しかし、やはりこれは問題です。まず冒頭で述べたように、ジャーナリズムの基本的な心得に背いていますし、そのうえ外信での報道内容が不正確になる可能性があるからです。通訳者を用意していたとしても、自ら現地の言語でその社会を理解しているかどうかは取材活動に非常に大きな影響を及ぼすと言えます。

 数年前には、本国から派遣された某メディアのソウル特派員が、ソウル支局で雇用した韓国人記者に取材を全て任せ、記事の記者名だけを自分の名前にするというケースがありました。これは「黒髪の外信記者」の間で論議を呼びました。外国人記者が自分自身で韓国の取材をすることができないため、こうした事象がたびたび発生するのです。

 つまり、現在ソウルの外信記者たちは韓国についてさほど詳しくなく、知っていても支局のローカルスタッフが翻訳してくれた新聞記事の要約を、それも主な懸案だけを読んで、韓国の対外政策や汝矣島の政治についてリポートするケースが多いということなのです。

 先日、現在研修で滞在しているワシントンのジョージタウン大から遠くないポトマック川近くのカフェでコーヒーを飲んだのですが、どこからか韓国語が聞こえてきたので耳を澄ませて辺りを見回しました。ところが韓国人らしき人は全く見当たりませんでした。しばらく注意深く聴いていたところ、店内で流れている音楽がKポップだったのです。ネイバーでその音楽を検索したところ、ガールズグループNewJeansの曲でした。今年3月末にフロリダのオーランドに行った時も、レストランでKポップがかかっていてその人気を実感したのですが、ワシントンのど真ん中で再び耳にして、一層うれしくなりました。

 Kカルチャー(韓国文化)が世界に広がっているのですから、大統領室で開催されるほどの記者会見なら、外信記者たちが自分の駐在する国の言葉で質問する姿が見られればいいのに、と思いました。仮に英米圏の記者たちに無駄な優越感があるのなら、そうした優越感を捨てて、韓国語で自ら南大門市場の商人を取材し、韓国語の新聞を読み、韓国語でテレビやラジオの情報に接すれば、より正確な報道が出るのではないかと思います。

 韓国では不思議なことに、外信の記事というとなぜか公的な信用があるように考えられてしまうのですが、実は注意して読む必要もあると申し上げたいです。先に述べたように、ジャーナリズムの基本をおろそかにしているケースもあるからです。

 韓国の道路標識すら読めない外信記者が韓国の政治について記事を書いているとしたら、どう思いますか? 誰もが気軽に触れられる部分ではないような気がして、公論の場に疑問符と驚きを投げ掛けてみました。

ワシントン=盧錫祚(ノ・ソクチョ)記者(ジョージタウン大訪問研究員)

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