北朝鮮から韓国に渡った父親が残した遺産のうち、約196億2400万ウォン(約22億3000万円)を北朝鮮にいる息子1人と娘1人が相続した事実がこのほど明らかになった。北朝鮮にいる子女は、父親が韓国に渡った後にもうけた家族を相手取り、「家族関係確認訴訟」と「相続財産分割訴訟」を韓国の裁判所に起こし、いずれも勝訴したという。

 しかし、北朝鮮の子女が相続した財産を直接使用・管理することはできない。また、子女は相続関連訴訟を代理した韓国の法律事務所との間で弁護士受任料を巡り、裁判で争っている。

■北朝鮮でどうやって相続を受けるのか

 韓国に渡ったAさんは2012年3月に死亡した。Aさんが残した遺産はソウル市の建物と京畿道南楊州市、九里市の土地など数百億ウォン相当と推定された。Aさんは北朝鮮に息子1人、娘1人がいる状態で韓国に渡り、韓国で3人の子どもをもうけたという。

 北朝鮮にいる子女が韓国の家族を相手取り、遺産分与を求める訴訟を起こしたのは2016年のことだ。それに先立ち、韓国にいるAさんの家族間で相続財産の分割を巡る訴訟が2013年に起こされていた。その後、2015年ごろに「仲介人」が登場し、北朝鮮の子女から相続関連の権限を委任され、代わりに訴訟を起こした。

 北朝鮮の子女は2018年、自分たちがAさんの実子であることを求める家族関係確認訴訟で勝訴した。それに続き、2019年には自分たちが受け取るべき相続分を返還を要求する相続財産分割訴訟でも勝訴した。このため、Aさんの遺産のうち、約196億2400万ウォンを北朝鮮にいる子女が相続することになった。相続財産には京畿道南楊州市の土地(93億8000万ウォン相当)、銀行預金約85億8900万ウォン、ソウル中区にある建物(8億4000万ウォン相当)などが含まれた。

■脱北するか統一しなければ、財産権行使不可

 北朝鮮の子女がAさんの遺産を相続できる根拠は、2012年に施行された「南北住民間の家族関係と相続などに関する特例法」(南北家族特例法)だ。同法によって、北朝鮮にいる子女は相続事実を知った日から3年以内、相続が行われた日から10年以内に相続回復を請求することができる。相続事実を知った日から3年以内でも実際に相続されて10年が経過していれば請求できない。最長10年で請求権がなくなる点は現行民法に規定された通常の相続回復請求期間と同じだ。

 南北家族特例法に従い、北朝鮮の子女が相続したAさんの遺産は、裁判所が選任した財産管理人が保管している。北朝鮮住民が相続した韓国資産が北朝鮮に渡り、軍事用途などに転用されないようにすることが特例法の趣旨だ。

 北朝鮮の子女が相続財産を直接使用・管理するためには法務部長官の許可がなければならない。特例法は国家安全保障、秩序維持、公共の福祉などを阻害する場合には許可してはならないと規定している。法務部関係者は「相続を受けた北朝鮮住民に財産を直接使用・管理することを認めた事例は1件もない」と話した。

 法律専門家は「北朝鮮の子女が脱北し、韓国に来て財産権を直接行使するのが最も早い方法になる」と説明した。ただ、北朝鮮当局も訴訟結果を知っているため、子女の脱北は難しいという見方が出ている。一方、南北統一が実現すれば、子女は財産権を直接行使できるとみられる。

■弁護士受任料訴訟が進行中

 北朝鮮の子女は、自分たちの相続訴訟の代理を務めた韓国の法律事務所とも裁判で争っている。法律事務所は北朝鮮の子女の委任を受けた仲介人と「相続割合の30%またはそれに相当する金額を成功報酬とする」「北朝鮮の子女が受け取ることになる相続財産から成功報酬を優先的に支払う」という内容で契約を結んだ。相続額が約196億2400万ウォンに決定し、成功報酬は約58億8700万ウォンとなった。

 しかし、子女が成功報酬を支払わなかったため、法律事務所は支払いを求めるいう訴訟を起こした。一、二審は子女が勝訴たが、大法院で判決がやや変更された。大法院は4月4日、「成功報酬契約は無効だが、訴訟委任契約自体は有効なので、弁護士報酬は支払われなければならない」とし、審理をソウル高裁に差し戻した。

イ・スルビ記者

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