コラム
三権分立の大切さを気づかせた2024年韓国総選挙【コラム】
4月10日に行われた韓国総選挙の軸が確実に野党に傾いたという分析があふれた今月初め、「野党圧勝を警戒する中央省庁の公務員が多い」という話を聞いて驚いたことがある。「どんな場合であれ、野党が200議席以上を占めてはならない」という主張だった。最初は「やはり公務員は政権与党の味方なのか」と思ったが、じっくりと話を聞くとそうではなかった。
公務員による心配の対象は尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権ではなく「行政府」だった。行政、立法、司法の三権分立を語る場合の行政府で、立法府と区別される狭い意味での政府だ。公務員を職業とする人々らしく、立法府の権力肥大化によって、行政府が無力化することを懸念したのだ。
官僚らは野党が200議席を超えても、大統領弾劾と憲法改正の可能性は低いとみた。弾劾の最終決定権は憲法裁判所が持っているからだ。憲法改正も最終的には国民投票で決定される。野党が無理に推し進め、世論の逆風にさらされた場合、何も得られないリスクが伴う。
最悪のシナリオは巨大野党が法律の制定権、改正権を十分に活用し、行政府の権限を奪うことだった。代表的な手段は、大統領令である施行令で委任されたさまざまな行政措置を上位の法体系である法律に引き上げることだ。例えば、住宅に対する財産税や総合不動産税のような保有税の税率は法律で定められているが、課税標準は施行令で調整できる。尹錫悦政権が国会の同意なしに保有税を引き下げることができた理由だ。
ところが、税率だけでなく課税標準まで法律で定めると、政府が裁量権を発揮する根拠がなくなる。政府が保有税負担緩和という政策を実行したくてもできなくなるのだ。大統領が「国民の財産権を過度に侵害する立法」だと反対し、拒否権を行使したとしても、国会で再議決すればよい。それが200議席が持つ絶対的な力だ。国民生活と直結する税金減免措置は、多くが法律ではなく施行令で規定されている。法制処によると、韓国には1622本の法律と1886件の大統領令が存在する。法律に多くの内容を盛り込むほど、国会の権限は強化されるが、大統領令に象徴される行政府の権限は縮小する。
米国は議会権力が肥大化しても、大統領令である行政命令(Executive Order)を通じ、行政府の権限を保障する。大統領の任期は4年だが、議会選挙は2年ごとに行われ、与小野大の状況が頻繁に発生することと関連があるとされる。トランプ前大統領がオバマ前政権の「健康保険法(オバマケア)」を廃止したり、米国・メキシコ国境に障壁を建設したりしたのは全て大統領令によるものだった。ルーズベルト元大統領はかつて金を国有化し、金の所有と流通を非合法化する超法規的な大統領令を発動した。一方、韓国では過去の独裁体制で国民の基本権を過度に制約する緊急措置のような行政権乱用を防ぐため、大統領令の制定権限を厳しく制限している。国会の委任がなければ、大統領令を出すことができないのだ。
国家権力の集中を防ぐ三権分立は、民主主義が機能する上での中心原理だ。英国の政治家で歴史学者でもあったジョン・アクトンは「権力は腐敗する傾向があり、絶対権力は絶対的に腐敗する」と指摘した。けん制を受けない権力ほど、独裁と腐敗の道に陥りやすいというのが歴史の教訓だ。独裁とは行政権の乱用を意味するが、そんな常識も絶対的ではない。国会が行政府を圧倒する立法府による独裁も可能だからだ。今回の総選挙は政権に対する中間評価を超え、三権分立まで揺さぶりかねないという事実を悟らせてくれる契機になった。
羅志弘(ナ・ジホン)記者