▲今月10日に行われた韓国総選挙で支持者の結集を図るため、与野党は総力戦を展開した/ニュース1、NEWSIS

 こういう状況をちょっと想像してみよう。この人物の行為は道徳的に正しいだろうか。

 「ある人が押し入れを整理している途中、自分が昔使っていた太極旗(韓国国旗)を発見した。太極旗はもう必要なかったので、彼はそれを数枚に切ってトイレを掃除する雑巾として使った」

 とても不快に感じるだろうか。そんな方にはさらに尋ねるとよい。

「その行為は誰にも被害を与えないのに、なぜ誤った行動なのか」

「……」

(しばらく間があって)

「そうだが、太極旗を雑巾として使うなんてとんでもない」

 そう答えるしかなかったならば、その人物は保守主義者である蓋然性がかなり高い。

 道徳の基盤について研究してきた社会心理学者ジョナサン・ハイトによると、人間は道徳的判断を下す際、自分の「直観」を先に作動させ、理由を明らかにしなければならない時に初めて考え始める。すなわち、直観的に不快、軽蔑、怒り、気持ち悪さなどの感情が先に起き、次にそうした感情を合理化するための「推論」が作動する。道徳的判断においては、誰でも直観が優先されるということだ。

 それならば、先の太極旗雑巾の話で道徳的不快感や怒りを特に感じない直観の所有者は、一体どんなタイプの人物なのだろうか。保守・革新間の道徳的直観の違いに関するこうした疑問こそ、総選挙の結果と最近の政治的分裂に対する深層的アプローチになり得る。

 ハイトが全世界の13万人以上にアンケートを実施して提示した道徳基盤理論によれば、全ての文化圏に普遍的に適用される道徳として、6つの基準が存在する。それは被害、公正性、忠誠心、権威、高貴さ、そして自由だ。彼は道徳性がこの6つの基盤(直観)上に形成されるとみて、それぞれの基準がどんな内容を含むのかを説明する。例えば「たとえ家族が過ちを犯したとしても家族に忠実でなければならない」というのは忠誠心の基盤、「軍人ならば上官の命令に同意できなくても、義務的に服従しなければならない」というのは権威の基盤、「被害を与えなくても、嫌われる行為はしてはならない」というのは高貴さの基盤に属する。6つの基盤は誰にも存在する。

 だが、保守か革新かによって、6つの基盤の加重値は明らかに異なる。保守は6つの基盤全てを重視するが、進歩は主にうち3つの基準に敏感だ。革新は配慮・被害の基盤と自由・圧制の基盤に最も依存し、公平性・不当性の基盤も働かせる。例えば、左派は右派に比べて相対的に暴力と苦痛のシグナルをより敏感に受け入れるため、平等のために闘争しなければならないと信じる。また、弱者が強者に抑圧されないように政府が取り組むべきだと主張する。一方、右派も自由を強調するが、彼らは革新政権の政策に苛立つことが多い。なぜならそうした政策が特定の弱者集団(労働者、消費者、環境)を保護するかと思えば、他の集団(例えば中小企業の事業主)を圧制するためだ。公平性・不当性の基盤においても、右派は相対的に「最も熱心に仕事をした人に最も多くの報酬を得るべきだ」という比例の原則を金科玉条のように受け入れる。

 そして、革新と保守を分ける決定的な基準は、忠誠心、権威、高貴さの基盤だ。実際これは個人的レベルではなく集団的性格を持つ。革新はこれら3つの集団的な基盤に非常に鈍感だ。例えば、上記の太極旗雑巾の例を保守主義者が不快に感じる理由は、それが忠誠心の基盤に反するためだ。右派は共同体を壊してまでも理念を守りたくないのに対し、左派は弱者を保護するためなら、内部で銃を撃ち合っても問題にならない。

 

 ここですぐに質問してはならない問題がある。「右派と左派のうち、どちらがより正しい道徳基盤を持っているのか」――。この問いだけを投げ掛け続ける陣営は「究極的」に失敗する確率が高い。なぜなら人間がどんな方法で道徳判断を行い、人々がある道徳基盤をなぜ重視するのかに対する敏感さがなければ、相手を説得できないためだ。そうした議論がなければ、なぜ地方の住民と労働階層が自分たちの利益を代弁してくれそうな革新側に立たず、保守に投票するのかを到底理解できない。どちらの陣営を標榜しても、共同体基盤の道徳資本を重視しない政治勢力は勝てない。

 総選挙は終わったが、政治的対立は新たに始まるだろう。勝利しようが失敗しようが、これからは政治工学的分析を超越し、国民の道徳的直観を深く探求すべき時だ。

チャン・デイク嘉泉大創業学部碩座教授(進化学)

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