▲朝鮮中央通信、聯合ニュース

 3月28日に国連安全保障理事会の北朝鮮制裁委員会専門家パネルの任期延長決議案がロシアによる拒否権行使で否決された。これはロシアと北朝鮮の関係が一層緊密化したことを示す象徴的な出来事だった。米ニューヨーク・タイムズは「専門家パネルの無力化はロシアと北朝鮮との関係、そして北朝鮮の核問題における新たな分岐点になりかねない」と分析している。その上で同紙は「過去10年間、米国とロシアが共通の大義名分を掲げることができたプロジェクトは北朝鮮による核兵器拡大阻止だったが、もはやこれも崩壊に至った」とも指摘した。

 米戦略国際問題研究所(CSIS)は「ロシアによる拒否権行使は国連の北朝鮮制裁体制弱体化を目指す組織的な努力の第3段階」と説明した。国連安保理による北朝鮮制裁決議の中断(第1段階)、そして北朝鮮による弾道ミサイル発射に対する新たな安保理制裁の阻止(第2段階)に続く、いわば北朝鮮制裁体制の永久解体が始まったというのだ。

 なぜこんな事態になったのか。ロシアはウクライナ戦争の長期化で困難な状況に追い込まれたため、北朝鮮から武器支援を受けるため恥も外聞もなく北朝鮮を擁護するようになった。ロシアは1950年の6・25戦争以来、北朝鮮とは最高レベルの連携を続ける一方で韓国にもさまざまな形でシグナルを送ってきたが、韓国政府はこれを外交安全保障における最優先課題とは認識しなかった。北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)総書記が昨年ロシアの宇宙基地を訪問し、プーチン大統領と首脳会談を行うなど両国関係の緊密化は以前から進んでいたが、それでもロシアに対する韓国の外交面での「レッドライン」は逆に後退してきたのだ。

 ロシアのラブロフ外相は昨年11月、北朝鮮との武器取引で「ロシアは国連の北朝鮮制裁に違反した」と非難を受けた際、「国連安保理が制裁を行った」「抗議は安保理にやれ」という前後のつじつまが合わない発言を行った。ロシアは安保理常任理事国として過去に10回以上北朝鮮制裁決議案に賛成したが、今後はこれを記憶しないという発言だった。

 今年に入ってジノビエフ駐韓ロシア大使はあるインタビューで韓国を「非友好国」、北朝鮮を「友好国」と呼んだ。ジノビエフ大使は「韓国がロシアの非友好国から友好国に戻る最初の事例になることを希望する」と述べた。これは事実上の脅迫であり、大使として駐在国に対して守るべき一線を越えたとも言える。ロシアは韓国の宣教師を国交回復以来初めて「スパイ容疑」で身柄拘束した。ロシアと北朝鮮は昨年後半から今年2月までの約6カ月間、6700個のコンテナで8000発以上の砲弾と物資を交換した事実も公表された。

 今年2月に尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が北朝鮮を批判した直後、ロシア外務省のザハロワ報道官は「ぞっとする」と批判したが、これは絶対に黙認すべきでない。尹大統領は「北朝鮮政権は全世界で唯一、核兵器の先制使用を法制化した非理性的な集団だ」と述べたのだが、これにロシアは「明らかに偏向している」と反論したのだ。これはロシア外務次官の来韓中にロシア・メディアが報じた内容だが、事前にプーチン大統領の指示あるいは黙認がなかったらこんな発言はできなかっただろう。プーチン大統領はモスクワで北朝鮮の崔善姫(チェ・ソンヒ)外相に訪朝を約束したが、ザハロワ報道官による尹大統領批判は「訪朝を約束したプーチン大統領が金正恩総書記に代わって韓国に抗議した」とも受け取れるものだった。

 尹大統領による北朝鮮批判にいわばロシア外務省の報道官が反論したわけだが、これは単なる外交面での非礼にとどまらない。今後北朝鮮が何か事を起こした場合、ロシアはこれに同調することを明確にしたのだ。北朝鮮とロシアの軍事協力がさらに緊密化し、韓半島を危険な状況に追い込むというシグナルとも受け取るべきだ。ところが韓国政府は「常日頃やや過激な発言をする女性外交官だ。無視してもよい」「ロシアとは水面下で互いに一線を越えないことで話はついている」とコメントし、深刻には受け取っていない様子だった。

 しかし結果的にロシアが国連の北朝鮮制裁パネルを無力化したことで、ロシアと北朝鮮との関係はさらにレベルアップした。この問題は非常に深刻だったため、韓国政府も2日に異例の対抗措置に乗り出し、北朝鮮とロシアの間で軍事物資を運搬したロシア船籍の貨物船2隻、そして北朝鮮労働者の送り返しに関与したロシアの2機関と2人の個人を独自制裁の対象に指定した。

 韓国外交部(省に相当)による今回のロシアへの対応が消極的だった背景には「ロシア・フォビア(恐怖症)」の存在がある。20年以上前に韓国では2人の外交部長官がロシアとの外交問題が原因で更迭された。1998年に当時の朴定洙(パク・チョンス)外交部長官は韓国とロシアによる互いのスパイ追放事件の影響で更迭された。また2001年には韓ロ首脳会談の共同声明に「米国が破棄を主張した弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約の維持・強化の文言があった」との理由で当時の李廷彬(イ・ジョンビン)外交部長官が辞任に追い込まれた。韓国とロシアの対立でロシア担当局長が突然更迭されるケースもあった。そのため韓国外交部ではロシアに対して可能な限り対応や対立を避ける雰囲気が強くなっているのだ。

 先日千英宇(チョン・ヨンウ)元外交安保首席があるコラムで「ロシアと北朝鮮の緊密な関係があからさまになり、状況は根本から変わった」「今後は対ロシア政策、そしてウクライナに対する武器供給自制の方針を全面的に再検討すべきだ」と主張した。これに対してロシアの韓国大使館に赴任経験のある「モスクワ・スクール」の外交官OBたちから批判が相次いだ。ある外交官OBは「千元首席の発言はそれらしく聞こえるが、果たしてそんなネガティブなアプローチがロシアに通じるだろうか」と指摘し、別の外交官OBは「ロシアは国連安保理の常任理事国でありながらウクライナを侵攻し、何かあれば核兵器の使用をちらつかせている。そんな国を無駄に刺激する必要はない」と主張した。韓国野党・共に民主党の李在明(イ・ジェミョン)代表は「ゼレンスキーは政治家として素人で、ロシアを刺激する外交政策を行った。そのため両国は衝突するようになった」と述べ、ウクライナ戦争への不介入を主張するかのような立場を明確にしている。

 主権国家としてやるべきことを必要な時に、それも毅然(きぜん)とやらなければ奴隷のように生きるしかないのが国際社会だ。しかし上記の主張はこの厳然たる事実から完全に顔を背けている。ロシアと北朝鮮による最近の関係強化は、韓国に対して「ロシア・フォビア」を克服すると同時に、ロシアとの関係を根本から見直し再設定を迫るものとなった。北朝鮮は毎日のようにミサイルを発射し挑発を続けているが、ロシアがその北朝鮮を露骨に後押しするのであれば、「何か問題があるかもしれないが、取りあえず良さそうに見えるからまあいいだろう」という形の従来の対ロシア政策には終止符を打たねばならない。世宗研究所の李容濬(イ・ヨンジュン)理事長は「ロシアは北朝鮮と堂々と武器を取引し、あらゆる外交問題で北朝鮮を後押ししている。そのため韓国だけが外交で中立を守るべき理由はもはや存在しない」「主権国家同士の関係では相互主義が重要だ。そのためロシアに対してそれ相応の対応を取らなければ、プーチン大統領をけん制することはできない」と指摘した。

李河遠(イ・ハウォン)記者

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