寄稿
天安爆沈陰謀論者が次々と韓国総選挙に出馬、国民の常識を恐れないのか【寄稿】
1948年の建国以来、大韓民国は共産勢力による軍事的挑発と政治戦に悩まされてきた。38歳の金日成(キム・イルソン)がスターリンと毛沢東の許可を得て、6・25戦争(朝鮮戦争)を起こした際には、南側に暗躍する左翼勢力との合同作戦を計画していた。休戦協定後も金日成は赤化統一を諦めなかった。大韓民国内部には表現の自由を悪用し、国体を揺るがす反国家勢力が存在してしていたからだ。
1980年代以来、大学のキャンパスを占領した主体思想派運動家の活躍ぶりを見て、金日成は革命の満潮が到来すると考えたようだ。北朝鮮の教科書は大韓民国で起きたすべての民主化デモ、反政府運動、労働ストライキなどが「主体の旗印に従って進む南朝鮮革命」と教えている。実際韓国の北朝鮮追従勢力は「偉大な首領金日成同志」を叫び、主体思想に追従していた。北朝鮮が韓国に対する軍事的挑発を行えば、北朝鮮追従勢力は韓国政府を攻撃した。南北左翼の連携プレーは一度や二度あったことではない。中でも天安爆沈事件の陰謀論者の活躍は、北朝鮮式政治戦の極致だった。
2010年3月26日、天安事件発生後、韓国国防部は軍民合同調査団を設置し、綿密に調査を行い、5月20日に北朝鮮潜水艦の魚雷攻撃による爆沈だと発表した。合同調査団は国軍と4カ国および民間研究機関12カ所の専門家73人で構成された。289ページに上る調査結果報告書は、全ての不確定要素を列挙した後、一つずつ否定していく方式を取った。
104人の兵力が乗っている軍艦が沈没するには、①座礁、衝突、疲労破壊などの非爆発②弾薬庫爆発、燃料タンク爆発などの内部爆発③魚雷や機雷による水中爆発や巡航ミサイル、弾道ミサイル、簡易爆弾などによる水上爆発――しかない。同調査団は破壊の痕跡を分析し、非爆発の可能性を排除。引き揚げられた船体内部を調査し、内部爆発ではなかったことを明らかにした。合同調査団はまた、上方に大きく変形した船体の竜骨(船首から船尾にかけて通すように配置される強度部材)の切断面を分析し、衝撃波によるバブル効果の痕跡を確認した。最後に爆薬成分、海から引き揚げられた北朝鮮式魚雷の推進動力装置、生存者の証言まで全て総合し、天安は「北朝鮮で製造された感応魚雷の強力な水中爆発により船体が切断され沈没した」と結論づけた。
合同調査団の報告書は、事件発生直後から北朝鮮を弁護する反国家勢力が悪意で生産し、組織的に広めた数多くの陰謀説をきれいに退ける決定的物証と科学的論証を盛り込んでいる。それにもかかわらず、当時の世論調査を見ると、国民の約30%は合同調査団の発表に不信感を抱き、政府操作説、米軍誤爆説、座礁説、疲労破壊説など、物証も論証もない荒唐無稽な陰謀説にだまされた。
当時最大野党は北朝鮮の犯行を認めなかった。ある有名な詭弁論者は「0.001%」も信じられないと言い、非常識な意地を張り、ある政治家は軍事テロに遭った国軍と政府に向かい、「残酷な敗戦の責任を負って謝罪しろ」と声を荒げた。5年後、文在寅(ムン・ジェイン)政権当時の新政治民主連合代表は、天安事件が「爆沈」「北朝鮮潜水艇による攻撃」であることをようやく認めたが、政府の安全保障失敗を批判するというおかしな行動を見せた。彼らはみな、軍事テロを行った北朝鮮の全体主義政権に対しては、批判も抗議もしなかった。家に盗賊が入っているのに、盗賊は逃がし、家長を殴ったも同然だ。テロ集団を庇護し、テロに遭った国軍を非難する彼らの宿敵とは一体誰なのか?
最近総選挙を控え、天安陰謀説をまき散らし、暴言を吐いていた人物が相次いで公認されるという不条理が起きた。自由民主主義国家は、誰が何を考えても、その考えをどのように表現しても、他人に直接危害にならない限り処罰してはならない。 開かれた社会の自由と寛容を悪用する勢力が国会入りを狙っても、法的な制約が加えられることはない。
北朝鮮の軍事テロに目を閉じ、韓国政府と国軍を攻撃した人物には国民の代表になる資格がない。にもかかわらず、開かれた社会の自由のおかげで、彼らは今、公党の公認を受け、国会へと向かっている。韓国社会はなぜ、特に反国家勢力の妄言にだけ寛容なのか。彼らの国会入りを阻止する方法は、市民社会の公論と有権者の投票しかない。おかしな時代の選挙では、良い候補を選ぶことよりも悪い候補を排斥することが最善の投票行動かもしれない。
宋在倫(ソン・ジェユン)カナダ・マクマスター大教授(歴史学)