▲李鐘燮国防部長官(当時)と韓東勲(ハン・ドンフン)法務部長官が昨年9月18日、国会で本会議を終え握手している

 韓国の李鐘燮(イ・ジョンソプ)駐オーストラリア大使は「チェ・スグン上等兵死亡事件」に対する捜査妨害疑惑で高位公職者犯罪捜査処(公捜処)の捜査を受けている最中に任命され出国したため、論議を呼んだ。昨年12月に出国を禁止された事実が最近報じられたのに続き、出国禁止解除申請の3日後に解除が認められ、オーストラリアに出国したことから「逃亡疑惑」が指摘された。野党は「尹錫悦(ユン・ソンニョル)ゲート」だとして攻勢をかけている。

■海兵隊のチェ上等兵死亡事件が発端

 昨年7月、集中豪雨による行方不明者の捜索に投入された海兵隊のチェ・スグン上等兵が死亡する事故が起きた。李大使はチェ上等兵が死亡した当時、国防部長官だった。民主党の「海兵隊員死亡事故真相究明タスクフォース(TF)」は昨年9月、李長官を「職権乱用」の疑いで公捜処に告発した。

 チェ上等兵が死亡すると、当時のパク・チョンフン海兵隊捜査団長(大領=大佐に相当)は、経緯を調査後、イム・ソングン海兵隊第1師団長ら8人に業務上過失致死容疑を適用すべきだという資料を作成し、警察に提出した。当時国防部長官だった李大使は、いったん報告を決裁したが方針を変え、警察に提出された報告書を回収するよう指示した。これが捜査妨害(職権乱用)に当たるというのが民主党の主張だ。民主党は申範澈(シン・ボムチョル)元国防次官、林鍾得(イム・ジョンドク)元国家安保室第2次長も公捜処に告発。公捜処は2人を立件した。 

 一方、チェ上等兵の死亡が現場指揮官らの業務上過失致死に当たるかどうかは慶尚北道警察庁が捜査を進めている。

■公捜処、6カ月にわたり李大使聴取せず

 公捜処が李大使に最初に出頭を求めて事情聴取したのは今月7日だ。李大使が4日に任命され、MBCの「李大使出国禁止」報道(6日)があった後、出頭を求めた形だ。それに先立ち、民主党による告発後、公捜処は6カ月間、李大使らに一度も出頭を求めなかった。

 李大使らに対する出国禁止措置は昨年12月に下された。公捜処は告発状の受理から4カ月たった今年1月、初めて海兵隊司令部と国防部調査本部などを捜索したが、まだ押収物の分析を終えられずにいるという。公捜処関係者は「大使任命の事実をマスコミを通じて知り、慌てて調査を準備した」と話した。公捜処は5日、李大使と出頭日程を調整し、7日に事情聴取が行われたという。司法関係者は「公捜処の捜査が遅々として進んでいないことを示すものだ」と話した。 

 李大使は公捜処による事情聴取から3日後の10日、オーストラリアに出国した。駐オーストラリア大使に任命された翌日の5日、李大使が出国禁止に異議を申し立てると、法務部は8日出国禁止を解除し、出国が可能になった。

 これについて、民主党は「逃亡目的の出国だ」と主張している。ハンギョレ新聞は17日、「李大使が資料回収当時、大統領室の内線番号による電話を受けた」という趣旨の報道を行った。李大使は同日、KBSのインタビューに対し、「公捜処が出頭を命じれば、あすにでも帰国する」と表明した。

 大統領室は公捜処が出頭を命じなければ、李大使を帰国させることはできないとの立場だ。大統領室は「公捜処が出頭を命じてもいない状態で在外公館長が帰国して待機するのは非常に不適切だ」と指摘した。公捜処は李大使の再出頭の日程については明らかにしていない。李大使の弁護人は19日午後、公捜処を訪れ、「事情聴取の期日を早く決めてほしい」という要望書を提出した。

■野党「尹錫悦ゲートだ」法曹界「職権乱用に当たらず」

 民主党は19日、「今回の事件は最初から本丸が尹錫悦大統領の『尹錫悦ゲート』だ」と主張した。民主党の金民錫(キム・ミンソク)総選挙状況室長は同日、「大統領の激怒が背景になり、(チェ上等兵氏死亡事件の)捜査結果が覆され、大統領は捜査対象の人物を駐豪特任大使に任命し、法務部は急いで出国禁止を解除して被疑者を出国させた」と批判した。

 司法関係者の多くは「指摘された疑惑の内容からみて、李大使の資料回収が職権乱用と認められるのは困難ではないか」との意見だ。職権乱用罪が成立するためには、職務権限を持つ公職者がその権限を乱用し、他人に義務以外のことをさせるか、権利行使を妨害した事実が求められる。

 ある司法関係者は「海兵隊捜査団が警察に提出した調査資料を李大使が回収させたことは国防部長官の権限行使と見なすことができる」とした上で、「海兵隊捜査団の捜査を妨害したのならば職権乱用が成立するが、チェ上等兵の死亡に関する捜査権は海兵隊捜査団ではなく警察にある。資料回収を義務以外のことをさせたと見なすことは難しい」との認識を示した。別の司法関係者は「チェ上等兵死亡の経緯に関する警察の捜査が進んでいることも、李大使が他人の権利行使を妨害してはいないことを示していると見なすべきだ」と述べた。

 さらに別の司法関係者は「李大使の職権乱用が認められないならば、大統領室も同じだ。大統領室関係者が資料回収に関連し、李大使に電話したとしても職権乱用には当たらない可能性が高い」と述べた。捜査権のない海兵隊捜査団が海兵隊第1師団長などに業務上過失致死容疑を適用すべきだとして、事実上捜査の結論を下し、警察に送ったこと自体が越権行為だという指摘もある。

 法曹界の一部からは、公捜処が李大使らを職権乱用の罪で起訴し、裁判所の判断を仰ごうとするのではないかとする見方も出ている。

イ・スルビ記者

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