2024年の大韓民国にとって最も大きな課題は少子化だ。合計特殊出生率は22年の0.78から23年は0.72と過去最低を更新した。24年は0.6台にまで下がる可能性も高いという。韓国では社会のさまざまな問題に対して政府次元で対策が進められるが、この問題でも少子高齢化社会委員会副委員長が交代し、委員の交代も検討されているという。韓国大統領室も少子高齢社会委員会に少子化対策の全面的な再検討を指示したそうだ。

 普通の韓国人は「出産と育児の面でより多くの支援を行えば問題は解決できる」と考えている。そのためこれまで海外の事例を常に参考にしようと世界中を回り、最終的に北欧社会をモデルとして設定した。その結果、韓国では「より手厚い福祉、育児に優しい社会環境の造成、子育て世帯への優先的な住宅供給、育児手当の拡大といった対策を総合的に進めていけば、少子化の流れは止められる」と考えられていた。韓国も出産・育児で幅広い支援を行い、それが北欧諸国と同じレベルに到達すれば、少子化問題は解決できると信じているのだ。その方向性が設定されれば次の課題はより多くの予算をさらに迅速に執行し、さまざまな制度を見直すことになってくる。

 ところが実際は北欧諸国でも過去最低の出生率を記録している。フィンランドの合計特殊出生率はここ10年で25%下落し2022年には1.32を記録した。23年も最終的な数値はまだ出ていないが、速報では1.26とさらに下落している。韓国にとっては仕事と家庭を両立する政策の元祖であり、福祉大国の代名詞とも言われるスウェーデンでも合計特殊出生率は22年の1.52から23年には1.45にまで下がるなど、毎年過去最低を更新し続けている。「ゆりかごから墓場まで」というスローガンで本格的な福祉社会の時代に入った英国も同様で、イングランドの合計特殊出生率は22年には1.49と過去最低を記録し、ロンドンなど大都市では1.2以下にまで下がっている。スイスも1.29と過去最低を記録した。

 出産と育児の面で手厚い福祉制度があると考えられてきた欧州各国でさえ少子化の流れは急速に表面化している。それでも合計特殊出生率が1に満たない韓国を含む東アジア諸国としてはうらやましいと思えるほどだ。台湾は2023年に0.87、シンガポールも23年に0.97を記録し、中国もすでに1となり0台に入るのは時間の問題とされている。韓国が今直面している少子化の流れは韓国だけの問題ではない。ベトナムの合計特殊出生率は23年に1.95にまで下がり、ホーチミン市では1.2にまで下落している。アフリカを除く世界の多くの国が同じ方向に向かっており、そのペースは徐々に速まっているようだ。

 少子化の原因については多くの国が「住宅などさまざまな費用の拡大で結婚と出産の年齢が高くなるか、あるいは結婚そのものを避ける傾向」などを大きな要因と認識している。それに加え出産と育児への支援が不十分で、女性だけに過度な負担が負わされていることも大きな原因と見なされている。そのためどこの国も出産育児のための休暇期間を長くし、費用面での支援を拡大している。また出産する女性はもちろん男性にも育児休暇を与え多様な勤務形態を導入するなど、仕事と家庭を両立するための政策をさまざまな形で推し進めている。これに加え出産後に一時金として支払われる出産奨励金の額も増えている。社会的には男性に対しても家事や育児に取り組むよう求める雰囲気が高まりつつある。

 少子化という結果はどこの国も同じだが、その原因は常に変化してきた。過去には出産と育児への支援不足が少子化をもたらしたとすれば、今は結婚と出産を行う世代の認識の変化が少子化の原因となりつつある。どこの国でも25-30歳前後の世代の間で「結婚や出産は人生の不確実性を高める」という認識が広がっており、また人間関係の側面でもリスクに比べてプラス面が低いと考えられている。さらに結婚や出産だけでなく恋愛についても利益ではなく損失の方に大きな神経を使っているため、結婚と出産を避ける傾向はより一層強まるようになった。台湾では「結婚に関心がない」と回答した女性の割合は2011年には12.4%だったのが、19年は36.8%にまで高まった。フィンランドでは「子供を持ちたくない」と回答した割合は1980年代に生まれた世代では5%に満たなかったが、90年代前半に生まれた世代では25%にまで高くなった。

 その一方でこれらの世代が充足したいと考える社会的な期待水準は非常に高くなった。大学に進学するのは当然で、そこから良い職場に入り高い所得と自分の家も持たねばならない。また仕事でも十分な達成感を得なければならないという。どこの社会でもこのような要求は本来ならごく少数の限られた人だけが満たせるもので、たとえ満たせたとしても出産可能な時期が過ぎた40代中盤でやっと一般的になる。期待水準の達成が難しいと判断した若者が結婚を諦め、わずかな満足を確実に得られる趣味やペットに没頭する傾向は今や世界的なトレンドだ。世界的に見ても子供を持つことは全てを手にした者だけの特権になりつつあるのだ。

 大韓民国が直面している少子化という課題は世界の普遍的な問題であり、社会環境の変化に伴う認識の変化が積み重なることで表面化した人類にとって初めての共通課題だ。そのため限られた資源を「短期間での少子化克服」という不可能な課題に投入することは言うまでも無く非効率的だ。少子化の克服ではなく少子化社会にいかに適応するかを考え、どこにリソースを投入するか正しく判断することこそ韓国社会の課題であると認識しなければならない。

チェ・ジュンヨン法務法人YOUL CHON(ユルチョン)専門委員

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