裁判
相次ぐ半導体技術漏えい…韓国裁判所の遅すぎる「ライバル企業への転職禁止」決定
韓国半導体大手SKハイニックスがライバル企業の米マイクロン・テクノロジーに転職した元研究員を相手取り申し立てた転職禁止の仮処分を裁判所が認めた。先端半導体技術を開発していた研究員の転職によって、重要技術が海外に流出することに裁判所が待ったをかけた格好だ。しかし、仮処分決定まで7カ月近い時間がかかり、技術とノウハウは既に流出してしまった可能性が高い。韓国半導体業界からは、国家戦略資産である技術の流出を防ぐため、司法手続きのスピードアップを図り、処罰も強化すべきだの主張が出ている。
ソウル中央地裁は2月29日、SKハイニックスが元研究員A氏を相手取り起こした転職禁止の仮処分申請を認め、違反時に1日当たり1000万ウォン(約112万円)をSKハイニックスに支払うよう命じる決定を下した。裁判所は「A氏が取得した情報が流出した場合、マイクロンは同じ分野でSKハイニックスと同等の事業能力を備えるのに要する時間をかなり短縮でき、SKハイニックスは競争力を相当部分毀損される」と指摘した。
約20年間、SKハイニックスに勤務してきたA氏は、メモリー研究所やDRAM設計開発事業部などに在職した半導体設計のベテランだ。特に2013年にSKハイニックスが世界で初めて開発した高帯域幅メモリー(HBM)の開発初期から2022年に量産を開始した第4世代HBMである「HBM3」の開発まで主導的に参加した。メモリー半導体であるDRAMを垂直に積み上げたHBMは、人工知能(AI)半導体の重要部品で、SKハイニックスとサムスン電子が市場を二分してきた。後発のマイクロンは最近、世界で初めて第5世代のHBMである「HBM3E」の量産に成功した。このため、半導体業界はA氏の転職によって、SKハイニックスのHBM技術とノウハウがマイクロンに流出したとみている。半導体業界関係者は「半導体が数人の力で開発できるわけではないが、キーとなる研究陣を迎え入れれば試行錯誤を減らすことができる」と話した。
22年7月、SKハイニックスを退職したA氏は、1年も経たないうちにマイクロンの役員へと転職した。退職時には「2年間はマイクロンなど競合業者に就職してはならない」という転職禁止約定書と秘密維持誓約書を取り交わした。誓約書によると、A氏は今年7月24日までマイクロンに就職することはできない。後からA氏の転職を確認したSKハイニックスは昨年8月、転職禁止の仮処分を申し立てた。半導体業界は裁判所による今回の決定がこれまでのケースより厳しい内容だと受け止めている。これまで転職禁止の仮処分申請は職業の自由を理由として、転職禁止期間が残り1年以下であれば棄却される場合が多く、認められても1日200万~500万ウォンの支払いが命じられていた。半導体業界関係者は「技術流出問題が企業競争力に関わる問題として浮上し、裁判所が事態の深刻さを認識した」と話した。
半導体が世界各国の国家戦略資産となり、技術流出漏えいも半導体分野に集中している。2019年から昨年までに起きた海外への技術流出96件のうち、半導体は38件で、全体の約40%に達する。過去の技術流出先は大半が中国だったが、今回の事件のように、国に関係なくさまざまな方面に拡大しつつある。1998年にサムスン電子に入社し、DRAM設計を担当してきたB氏が2022年3月に退職後、マイクロン日本支社に入社した事例が代表的だ。当時、裁判所は転職禁止の仮処分申請を認め、違反時に1日500万ウォンの支払いを命じた。
半導体業界は現在の制度では技術流出を防ぐことは容易ではないと指摘する。企業は退職者が転職した事実を把握することが困難で、転職禁止の仮処分を申し立てても、当事者が海外にいるなどの問題で決定が出るまでに1年近くかかるためだ。技術とノウハウの移転には十分な時間だ。2021年に産業技術保護法違反で起訴された事件の一審33件のうち、無罪と執行猶予が判決全体の87.8%に達するほど処罰も軽い。
ファン・ギュラク記者、柳智漢(ユ・ジハン)記者