コラム
「半導体戦争」司令部の運命を分ける韓国総選挙【コラム】
日本の熊本に建てられた半導体大手、台湾積体電路製造(TSMC)の新工場は、工場横のキャベツ畑の写真が印象深かった。しかし、人口4万3000人の菊陽町を細かく観察すると、全く違う姿が見えてくる。最近まで70代男性が牛を飼っていた約6000平方メートルの土地では現在、急ピッチで住宅工事が行われている。1坪当たり2万円の土地が昨年には同10万円、今は20万円に跳ね上がった。満面に笑みを浮かべる男性は「今売れば3億~4億円は稼げるが、売らずに工場関係者向けの賃貸事業をやりたい」と話した。利用客がなく無人駅だった豊肥本線原水駅は毎朝出勤する人波であふれている。
日本は地域ごとに最低賃金が異なる。熊本の最低時給は898円で東京は1072円だ。ところが、TSMC進出以降、状況が逆転した。人材派遣会社の経営者は「半導体工場の給食補助職は時給が1500円だが、第2、3工場ができれば3000円を超えそうだ」と話した。半導体業界の求人はあふれているが、技術人材が不足しており、大学も非常事態だ。熊本大は約70年ぶりの学部再編を行い、文系、理系を問わず受験可能な「情報融合学環」を新設。東大も熊本大に「ナノシステム集積センター」を開設し、共同研究に乗り出した。卒業まで4年がかかるため、スピード育成コースである半導体職業訓練校にはトラック運転手、介護施設職員までもが集まった。
それでもTSMCは台湾企業だ。日本が本腰を入れる工場は、北海道千歳市に建設中だ。トヨタ、ソニー、ソフトバンクなど日本を代表する企業8社が人工知能(AI)半導体として使用する「高性能・低電力」半導体の国産化に向けて設立したラピダス。会長は75歳、社長は72歳だ。 小池淳義社長は「われわれは20年遅れている。2位になればいいのか。この20年間の教訓は何なのか。目標は1位だ」と話した。再び戦闘態勢に入った半導体業界のベテランによる血なまぐさい叫びだ。
ラピダスのプロジェクトには少なくとも5兆円が必要だが、日本政府がまず1兆円をつぎ込む。TSMC熊本第1工場には最大4760億円、第2工場には最大7320億円の補助金を支給する。「政経癒着」と言ってもこれといった反論ができない。台湾と韓国は今の日本が恐れる「政経ワンチーム」の歴史を持っている。台湾で経済閣僚を努めた実力者、李国鼎氏は1985年、中国系米国人のエンジニア、張忠謀(モリス·チャン)氏に「台湾の半導体産業を育てたい。いくらカネが必要か」と尋ねた。TSMC設立資金の48%は台湾政府が出したが、それでも資金が足りなかった。企業経営者に「これまで政府が世話してきただろう」と電話をかけた。協力要請を装った脅しで金庫が埋まり、TSMCが発足した。
不屈の企業家精神と朴正熙(パク・チョンヒ)、全斗煥(チョン・ドゥファン)、盧泰愚(ノ・テウ)各大統領の全面的な支援があったからこそ、今の韓国の半導体産業がある。米国では兵器の正確度を高めるため、真空管の代わりに半導体を搭載しようとした米国防総省(ペンタゴン)が業界を急き立てたことが半導体発展のきっかけになった。米国は現在、半導体補助金を空からばらまいており、中国では政府と企業を区分する意味がない。
韓国が「政経癒着」という「言葉の制約」にがんじがらめになる間、米国、日本、台湾は「政経ワンチーム」でそれを打破し、「半導体戦争」に参入している。半導体戦争の司令部は政府と議会、そして企業だ。既に韓国の司令部は一部が砲撃で崩壊しているが、司令部となる将軍や部隊のどこからも進撃のスローガンが聞こえない。「チップウォー(ChipWar)司令部」の運命を決める韓国総選挙は4月に迫っている。
鄭佑相(チョン・ウサン)記者