22日に訪れた台湾積体電路製造(TSMC)の新工場(熊本県菊陽町)前は、2日後に迫った竣工式を控え、慌ただしい様子だった。小雨が降る中、2車線道路を自動車とトラックが絶え間なく通り過ぎた。竣工式には創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏が自ら出席する予定だが、岸田文雄首相が参加する可能性もささやかれている。張氏は中国の外交的圧力で活動が制限された蔡英文総統に代わり、国際社会で台湾政府の代表として活動してきた。2人が並んでテープカットを行えば、日台の強力な半導体同盟を象徴する場面として記録されるだろう。

 TSMCはサッカーコート29面に相当する広さ(21万平方メートル)の敷地に86億ドル(1兆2900億円)を投じ、半導体製造工場やオフィスビルなどを建てた。2022年4月に着工し、2年足らずという例を見ない超スピード工事だった。

 来月からは本格的に大型半導体装備を搬入し、今年第4四半期(10~12月)から量産を開始する計画だ。主力製品は自動車やカメラに使われる12~28ナノメートル半導体だ。製品の仕様だけ見れば、「先端」とは言い難い側面もある。世界の半導体市場の最先端製品である3~5ナノメートル半導体よりも10年以上遅れた技術であるためだ。しかも、日本より台湾が得る利益が相対的に大きいとみられる。

 TSMCは日本政府から工場の建設費用の40%に相当する4760億円の補助を受けた。工場の運営主体である合弁会社ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリング(JASM)にはソニー、トヨタ、デンソーなど主要顧客が出資した。TSMCにとっては、工場建設費用を大幅に節約できたほか、顧客まで確保されており、当面は一方的に利益を得られる構造と言える。しかし、日本の半導体専門家は「この工場をきっかけに日本の半導体が本格的に復活する」と予想する。

 日本経済新聞は「第1工場が順調ならば、第2、第3工場につながるのがTSMCのパターンだ」とし、日本が信頼を得られれば、別の進展があるのではないかと報じた。それは既に現実化している。TSMCは7日、第1工場の隣接地に第2工場を建設する計画を発表した。今年末に着工し、3年以内に工事を終え、2027年末から本格的に稼動するという。第2工場には100億ドル以上が投入され、第1工場とは異なり、6ナノメートル級の先端半導体を生産する計画だ。第1、第2工場が稼働すれば、日本はサムスン電子を猛追できる拠点を国内に確保することになる。

 工場の向かい側にはキャベツ畑が果てしなく続いていた。この一帯ではきれいな水質を利用し、キャベツやニンジンなどの野菜を栽培してきた。半導体製造工程にもきれいな水の供給が必要だ。きれいな水があってこそ作れる地域の名産品に「半導体」が加わったわけだ。

 TSMC熊本工場が日本経済の新しい活力源になるという期待も高まっている。九州経済調査協会はTSMCの第1・第2工場の経済波及効果が10年間で20兆円に達すると試算した。熊本県は工場建設による地域の経済効果が10兆5400億円に達すると推定した。

 周辺は「雇用特需」に沸いている。TSMCに関連した雇用の報酬は首都東京の水準に匹敵する。例えば、清掃業務は時給1800円、社員食堂の調理補助は1300円以上だ。 2010年に3万7700人に過ぎなかった菊陽町の人口は4万4500人へと18%増えた。高齢化と人口減少が日常化している日本の非首都圏地域では異例の光景だ。

 TSMC工場建設をきっかけに、日本半導体業界では最近台湾で実際に見て学ぶ官僚という意味の「遣台使」という新語が登場した。かつて中世期に唐の進んだ文物を学ぶために送った「遣唐使」のように台湾を学ぼうという意味だ。1970年代から80年代にかけ、電子業界で世界最大手として名声を上げ、その後極度の衰退期を経験したソニーは昨年、技術者200人を台湾TSMCに6カ月間派遣し、半導体技術を学んだ。苗村公嗣(なむら・きみひで)九州政策産業局長は「九州は復活するのではなく、新しく生まれ変わる」とし、「世界のシリコンアイランドになる」と述べた。

東京=成好哲(ソン・ホチョル)特派員

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