▲韓国代表クリンスマン監督(当時)の進退を発表するためにサッカー会館に入る大韓サッカー協会の鄭夢奎会長。16日撮影。/news 1

 「選手たちも人間だ」(サッカー韓国代表の主将ソン・フンミン)。ミスもするし判断を誤ることもある。しかも血気盛んな年ごろだ。韓国代表として招集されれば自動的にワンチーム精神があふれ出す、と期待するのは楽観的すぎる。彼らが一糸乱れず組織の論理に盲従すればいいのかもしれないが、現実は容易ではない。サッカー界ではよく知られた話だが、2022年ワールドカップ(W杯)カタール大会のときも、主力選手らの間で激しい摩擦や衝突があったという。決勝トーナメント進出という目標を達成したため、その内幕が明らかにされなかっただけだ。

 今回のアジアカップは違った。この「黄金世代」を集めておきながら、W杯でもなくアジアカップで優勝すらできないのかという失望。以前から批判されっぱなしだった監督。世論が沸き立っていても遠くの山を見つめるだけのサッカー協会。ここに「後輩選手による下剋上」という燃え盛る火種が投げ込まれ、四方から激しい炎が上がってしまった。

 スーパープレーヤーが集まったからといって、スーパーチームができるわけではない。全てに言えるわけではないが、スポーツ界では「ケミ(ケミストリー、相乗効果)」の力を信じる人が多い。チームの中に、説明できない精神的一体感・きずなが生まれれば、ピンチを乗り越えることができ、戦力は最大化され、「大会最後の試合」で勝つことができる、という考え方だ。つまり「ケミ」の力があってこそ優勝を成し遂げられるという共通認識があるのだ。「チームの『ケミ』とは、選手たちが互いをケアすることです。選手たちはレーシングカーではありません。チームメートに対する感情はどうしても生まれるし、そのような感情は競技力に影響を及ぼします」(米国の元プロ野球選手、ジョニー・ゴームズ氏)

 「ケミ」を引き出す責務は、最終的には監督にあると考える。こうしたことに長けている指導者は「名将」と呼ばれることが多い。クリンスマン監督が状況に合わせて変幻自在な戦術を駆使する「智将」でないことは、誰もが分かっていたようだ。それならばせめて、カリスマ性を発揮して内部の摩擦を解消し、「ケミ」を融合するという戦術以外の力を持った「徳将」や「勇将」であればよかったのだが、今思うとそのような力も持ち合わせていなかった。

 選手たちが監督に対し、特定の選手を外すよう要求していたということは、選手たちがいかに監督を舐めていたかということだろう。こんな度を越した振る舞いがあったということは、監督の権威が地に落ちていたという証拠だ。あるサッカー界の重鎮は、「ヒディンク監督のときには想像もできなかったこと」と話した。後輩が先輩を尊重し、先輩は後輩を気にかけ、選手は監督を尊敬し、監督は選手を激励・後押しするとき、チームの「ケミ」は最高潮に達する。今振り返ってみると、今回のアジアカップの韓国代表は穴だらけの船で長い航海に出たようなものだった。途中で座礁しても全くおかしくなかったのだ。

 既に水はこぼれてしまった。鍵となるのは、こぼれた水をどうやってすくい、元に戻すかということだ。どのみち全てをすくい上げることはできない。それでも、後遺症を最低限にとどめるために努力すべきだ。今、代表の外では下剋上の当事者たちを巡って先輩支持派と後輩支持派に世論が分かれ、互いに攻撃し合って収拾がつかなくなっている。

 こうした状況を放置しているうちに、韓国サッカーを支える根幹が揺らぐという事態にもなりかねない。それを望む人間はいないはずだ。何としてでもこの混乱を早急に収拾して傷を早く治し、再び素晴らしい代表チームをつくり上げることが重要だ。サッカーが与えてくれる成就感を、以前のように大勢の韓国国民が楽しめるようにすべきだ。普段サッカーに興味があるのかも怪しい一部の政治家までああだこうだと口を挟んでくる光景など、はっきり言って見たくない。

 そういう意味でもサッカー協会は早く目を覚ますべきだ。現在、この問題を巡ってありとあらゆるニュースやうわさが乱舞しているが、これを傍観しているのは無責任だ。あの下剋上の現場にはサッカー協会のスタッフがいた。衝突を見た人間も1人や2人ではないはずだ。どんなことがあって誰が誤っていたのか正確に調査し、問責が必要であれば適正な形で断行し、過ちを犯した選手は自粛させ、反省の機会を与えるべきだ。うやむやにしたまま引きずるべき問題ではない。長引けば長引くほど傷が深くなるだけだ。

 大韓サッカー協会の鄭夢奎(チョン・モンギュ)会長は「(誰が悪かったのか調査するうちに)傷口をえぐり、悪化させる恐れがある」として「傷を十分に治療できるよう支援していただけるとありがたい」と述べた。もっともな言葉だ。その治癒と復元のために、現段階で協会は何かしているのだろうか。触れないようにしたところで自然に癒えるものではない。適切なタイミングで治療しなければ、ゴールデンタイムを逃すことになる。

 代表チームはこのような落ち着かない雰囲気のまま、約1カ月後にW杯予選でタイ(FIFA〈国際サッカー連盟〉ランキング101位)と戦わなければならない。通常なら苦戦するような相手ではないが、今の雰囲気では勝利を楽観することはできない。タイもアジアカップで善戦した。1勝2分けで決勝トーナメントに進出し、グループリーグではサウジアラビアと0-0で引き分けた。サウジは韓国と1-1で勝負がつかず、最終的にPK戦で韓国に敗れたチームだ。

 協会の1年の予算は、国家代表のスポンサー企業からの後援金と、試合の収益635億ウォン=約71億円)、そして政府による直接・間接的な支援(333億ウォン)など、全て外部からの収入でまかなわれる。国家代表と政府支援がなければ組織を運営することもできない。もっと責任を重く受け止めるべきだ。真剣に事態を解決するために、もっと必死で駆け回るべきだ。

イ・ウィジェ記者

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