市況・統計
中国が5.2%成長? 再燃する「統計操作大国」論争
今年1月24日、中国・河南省政府が発表した域内総生産(GDP)統計が全世界の失笑を買いました。内容は23年のGDPが前年比4.1%増の5兆9132億3900万元(約124兆円)だったというものでした。
昨年初めに河南省が発表した22年のGDPは、6兆1345億1000万元だったので、成長率は本来マイナス3.6%となるはずです。しかし、答えに窮した河南省政府は「統計を検証した結果、22年のGDPは(当初の発表とは異なり)5兆8220億1300万元だった」と説明したのです。その通りだとすれば、3100億元も水増ししていたことになります。
こういういい加減な統計は、中央政府レベルでも容易に見つかります。
■変幻自在の統計数値
中国国家統計局は1月17日、23年の中国経済は5.2%成長したと発表しましたが、海外メディアは信用していません。GDP全体の25%を占める不動産投資がマイナス9.6%を記録し、輸出入も0.2%の伸びにとどまった状況で、そんな成長率があり得るのかという疑問です。
フィナンシャルタイムズ(FT)は、23年の中国の月別鉄鋼生産量統計を例に挙げました。鉄鋼生産量は7月には前年同月比11.5%増と好調でしたが、12月には急に14.8%減と低迷しました。月別では2017年以降で最も少ない数値でした。
同紙は昨年の鉄鋼生産量を22年並みの10億トン前後に合わせるために統計を操作したと推測しました。BMOキャピタルマーケッツのアナリスト、コリン・ハミルトン氏は「こんな数値は信じられないと考えるのが妥当だろう。政府の目標値に合わせるために戦略的に数値を縮小したものだ」と指摘しました。
■誰もだまされない数値操作
ここ数年来、国家統計局が発表してきた投資統計も不審な点が少なくありません。国家統計局は23年の固定資産投資が前年比3.0%増の50兆3036億元だったと発表しました。しかし、昨年初めに発表した22年の固定資産投資は57兆2138億ウォンでした。7兆元近く減ったのに3%成長したというのだから、何が正しいのか不明なほどです。
それ以前も同じでした。19年の固定資産投資は55兆1478億元で、前年比5.4%増えたはずでしたが、18年に発表された固定資産投資は63兆5636億元でした。8兆元以上減少したのに、堂々と増えたと発表したのです。在米の中国人評論家、蔡慎坤氏はX(旧ツイッター)に「いくら馬鹿でもこんな数値で自分をだましたところで、国民を欺くことはできないだろう」と投稿しました。
国家統計局は年始早々、青年失業率の統計操作疑惑に巻き込まれました。23年6月の青年失業率が21.3%と過去最高を記録すると、月別の統計発表を中断していましたが、6カ月ぶりに発表を再開し、12月の青年失業率が14.9%へと大幅に低下したと説明しました。失業率調査の対象を大幅に削減する方式で数字を操作した疑惑が指摘されました。中国経済専門家は「数字を操作したからといって、青年失業者が減るのか」と嘆き節です。
■実際の成長率は1.5~4.6%と推定
世界的な投資銀行やシンクタンクは、中国の昨年の成長率が公式発表(5.2%)を大幅に下回るとみています。アメリカのコンサルティング会社ロディウムグループは昨年末の報告書で、「23年の実際の成長率は1.5%をやや上回る水準だ」としました。不動産市場の低迷、予想を下回る消費の伸び、貿易収支の黒字縮小、地方政府の財政悪化などを考慮し、その程度だと推定したのです。
ロンドンに本社を置く投資コンサルタント会社TSロンバードは独自のGDP計算モデルを適用した結果、23年の中国の成長率は3.6%をやや下回る水準だったと推定しました。
台湾のシンクタンク、中華経済研究院の王国臣・助研究員は自由アジア放送(RFA)のインタビューに対し、「投資と消費、貿易統計などに基づき計算すれば、10%ほど数値が水増しされたとみられる」とし、実際の成長率を政府発表の5.2%から0.52ポイントを差し引いた4.6%前後と推定しました。
■「政権の正当性を守るために統計操作」
中国政府が経済統計を操作するのは、共産党政権の正当性を守ることが大きな目的です。経済指標が悪化すれば、共産党と習近平政権の正当性に疑問が提起される可能性があるからです。台湾・東華大学新経済政策研究センターの陳松興主任は「統計操作は共産党と習近平主席を守るためだ」と指摘しました。米戦略国際問題研究所(CSIS)の中国専門家、スコット・ケネディ上級顧問も23年7月のセミナーで、「多くの経済学者が中国のGDPや成長率の統計を信じていない」とした上で、「他の開発途上国より信頼度が低く、ロシアやパキスタンよりも劣るとの声もある」と語りました。
李克強元首相も2007年に遼寧省党書記を務めていた当時、米国の駐中大使に会い、「中国の統計は私も信じない。電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行の新規融資で景気を判断する」と述べたことがあります。経済誌エコノミストはそれをきっかけに「李克強指数」を算出しました。
こうした中、国家統計局は1月22日、「中国共産党規律処分条例」を改正し、統計操作を厳重に処罰する方針を発表しました。地方政府の統計操作を取り締まる姿勢を示したものですが、「数値操作は中央政府の判断でやるから、地方政府はしっかり報告しろ」という言葉に聞こえました。
崔有植(チェ・ユシク)記者