▲1月31日、ソウル市西大門区滄川洞の新村。がらんとした売り場の前を通り過ぎる市民たち。/チュ・ミンウク映像メディア記者

 「新村駅3番出口のマクドナルドの前で会おう」

 2000年代初めから半ばにかけて、ここは「出会いの場所」だった。近くの延世大学や梨花女子大学、西江大学をつなぐ中心街だった。大規模な外国語学習塾も多く、若者たちが集まるのに最適な場所だった。何よりもその時代、新村は最もトレンディーな街だった。明洞や狎鴎亭洞と共に「ソウル三大黄金商圏」と呼ばれた。若年層の消費パターンを把握するため、海外の有名フランチャイズがアンテナショップを出すほどだった。スターバックス、クリスピードーナツ、コールドストーンは1号店を新村、梨大一帯にオープンした。企業グループCJが手掛けたカフェ・フランチャイズ「ツーサムプレイス」も、2002年に初めての売り場を新村駅2番出口の前に構えた。このほかにもバーガーキング、ナトゥールなど、存在しないブランドがなかった商圏に、大学生たちはちょっとした集まりや合コン、学校の課題や勉強会など、さまざまな目的で集まった。

 しかし、20年が過ぎた今、スターバックス1号店を除いては全て閉店を余儀なくされた。6年前に廃業した新村駅のマクドナルドは、カフェやアティジェ(カフェ・ベーカリー・チェーン)に変わった。しかし、1月31日昼、アティジェには客がわずか2人しか見られなかった。夜12時でもハンバーガーを食べる人でにぎわっていた約20年前のマクドナルド新村店とは実に対照的だった。マクドナルドと双璧を成していた新村駅7番出口のロッテリアも1月23日、18年の営業に幕を閉じた。

 カゴン族(カフェで勉強する人)と呼ばれる人々が最も多く集まったのは新村のミンドゥルレヨント(タンポポの領土の意)だった。1人当たり5000ウォン(約550円)で飲み物は飲み放題で、カップラーメンやパンも食べられる。「チームプル(班別の課題)の聖地」とも呼ばれた。しかし、ここもカラオケに変わり、今では人出が見られない。新村の「名物通り」に位置していた化粧品売り場「エチュードハウス」も、ビル全体が空室だった。

 新村駅から延世大学前まで続く550メートルの延世路(別名名物通り)は、多くのビルが「テナント募集中」だった。軽く見積もっても10カ所以上だ。韓国不動産院の四半期別の商業用不動産賃貸動向調査によると、昨年第3四半期の新村・梨大地域の小規模商店街の空室率は22%で、ソウル市全体の平均を4倍近く上回っている。通りの終着地点に一つ寂しく残された「トクスリタバン(鷲〈ワシ〉の喫茶店)」だけが「古き良き新村」を思い起こさせてくれる唯一の店舗となった。

■老朽化した商圏

 新村が崩壊した理由の一つは商圏の老朽化だ。同日、名物通りと新村カフェには20-30代よりも40-50代の顧客が多く見受けられた。通りで出会ったある延世大学の学生は「友人たちと会う際は主に延南洞や延喜洞、弘大に行く」とし「行ってみたいと思わせるカフェや飲食店が、今の新村には存在しない」と話した。一帯を見渡しても、糖葫芦(とうころ、タンフールー)と人生4カット(韓国風プリクラ)のチェーン店だけが見られるだけだ。延世大学前でカフェを経営しているAさんは「新村の商圏が大学生の需要を失い、新村セブランス病院を訪れるよそ者の需要に取って代わられた」と話す。

 数年前から延世大学が1年生を仁川松島キャンパスに移したことも、新村の商圏が縮小した理由として挙げられる。新入生こそ最も遊びたい時期で、消費が多くなる時期だからだ。延世大学1年のキムさん(20)は「延世大学の仁川松島キャンパスから地下鉄で1駅離れた松島現代アウトレットによく出掛ける」と話した。

 このように、若年層が去ったことで、新村一帯は新しい売り場や新しいメニューを試す「テスト・ベッド」の役割を失ってしまった。最近、カナダの国民的コーヒーチェーン「ティムホートンズ」、米国三大ハンバーガーチェーンの「ファイブガイズ」などは、1号店を江南に出している。

■個性も消える

 新村商圏の個性が消え、外国人観光客の足取りが途絶えたことも原因として挙げられる。数年前までは新村駅から梨花女子大学につながる通りは、中国人観光客でにぎわっていた。梨花女子大学前で写真を撮り、新村で食事をする人が多かった。「梨花女子大学の前には梨花女子大学の学生よりも中国人観光客の方が多い」という話が持ち上がった時代だ。しかし、中国人観光客はTHAAD(高高度防衛ミサイル)配置問題により姿を消し、その後は新村ではなく聖水洞や清潭洞で多く見られるようになった。梨花女子大学前から新村汽車駅に連なっていたアパレル店舗は、インターネット・ショッピングモールに取って代わられた。大学生のいない大学商圏には、誰も魅力を感じなかった。

■高い賃貸料

 商圏の崩壊と反比例している賃貸料も、問題として指摘される。新村は、交通面で肩を並べる所がないほどに優良な商圏だ。そのため、賃貸料が下がらない。空いている所のほとんどが新村駅から延世大学につながる中心的商圏だ。ここ一帯はいまだに賃貸料が最も高い「黄金地帯」となっている。近くの不動産会社の代表は「家賃が月に4000万-8000万ウォン(約440万-880万円)程度」と答えた。会社や法人でなければ手に負えない金額だ。

 高金利に物価高、高い賃貸料に耐えられず、店舗が廃業してしまったのだ。延南洞や上水駅の近くのように、こぢんまりとした店舗が新たに店を構えやすい構造でなければならないが、そのようにはなっていない。同代表は「大学前で自炊する大学生たちも近くでデリバリーを中心に食事を賄っている」とし「大学商圏を前面に押し出してはいるものの、いざ大学生たちには無視されてしまう『パッシング商圏』となってしまった」と肩を落とす。

イ・ヘウン記者

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