▲イラスト=イ・チョルウォン

 今年初め、20代の韓国人男性がソウルを出発し、中国・北京に立ち寄ってから欧州へ行く時のことだった。北京国際空港に飛行機が着陸し、他の旅行客と一緒に出てきたところ、中国の税関職員に名指しされて「ついて来い」と言われたという。「乗り換え(transit)」のパネルを持った案内員のところに近づいていく前だった。数時間空港の外に出て、すぐ出国するのに、10本の指の指紋を取られ、顔認識の機械に顔を撮らせなければならなかった。中国の税関職員がどのようなシステムに基づいてこの男性を指名したのかは分からない。税関職員は既にこの男性の顔と旅行先を知っているようだった。

 40代の会社員K氏は昨年、中国出張のためのビザ申請書を書いていて、首をかしげた。計6ページにわたる申請書に兵役関連項目が6つあった。兵科・兵役中に専門教育を受けた特技・階級・兵役期間などをすべて書かなければならなかった。最終学歴や専攻も書いた。親・配偶者・子どもの生年月日や出生地の項目もあった。職場関連項目では上司2人の名前・職位・電話番号を書かなければならなかった。「私はもちろん、私の家族や職場・上司のすべての情報が盗まれた感じがした」と話す。いずれも中国が昨年7月、反スパイ法を強化して以降に起きたことだ。

 中国を行き来する韓国人たちの間では最近、入国審査に関する経験を語り合い、「何かなかったか」とあいさつを交わすのが流行になっている。2020年以降の新型コロナウイルス感染症流行期は中国への入国が物理的に難しかったが、今は「精神的に疲れる」という声が増えている。中国で勤務していた元外交官は最近、「絶対に中国に行くな」と言っている。「反スパイ法のモデルケースになってしまうかもしれない」ということだ。

 70代の韓国人実業家男性がダイアリー(業務用ノート)に付いていた小さな世界地図のために中国・瀋陽桃仙国際空港で足止めされる事件が発生した。台湾が「タイワン」として韓国や日本などと同じく国家と表示されていたため、「一つの中国」の原則に反するということだった。30年間にわたり中国で事業をしてきた男性は「地図が付いていることも知らなかった」と語った。税関職員たちは1時間後に地図をはがしてやっと男性を解放した。このため、中国共産党が普段から男性の中国国内における行動を5G監視システムで監視し、口実を作って心理的に脅したとの見方もある。

 昨年、米国のピュー研究所が24カ国・約3万人を対象に世論調査を行った結果、中国に否定的な回答者は67%に達した。韓国人は77%が中国のことを否定的に考えていることが分かった。つい10年前までは「中国文学科が英文科を抜き語学関連学科1位」という記事が多かったが、最近の中国語人気はその跡形もない。その理由は中国共産党が最もよく知っているだろう。

李河遠(イ・ハウォン)記者

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