尹錫悦政権
尹大統領、「梨泰院惨事特別法」に拒否権…災害の政争化を危惧…9回目の拒否権
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は30日、「梨泰院惨事特別法」に対して再議要求権(拒否権)を行使した。法案は韓国国会へ差し戻されることになり、本会議の再票決で在籍議員過半数の出席、出席議員3分の2以上の賛成を得られなければ廃棄される。尹大統領の拒否権行使は9回目だ。
梨泰院惨事特別法は、2022年のハロウィーン直前の10月29日にソウル市竜山区の梨泰院一帯で起きた雑踏事故について、特別調査委員会を設置し、追加の調査をすることを主な内容とする法案だ。これに対し韓国政府は「事故原因を究明するため、警察において500人を超える人員で特別捜査を進め、その結果を公開し、検察でも補完捜査を実施し、政府は国会の国政調査にも誠実に応じた」とし、その上で「捜査結果に何らかの問題があるという根拠もなしに特調委を設置することは、国の行政力と財源を消耗し、国民の分裂と不信のみを深める恐れがある」と説明した。
韓国政府は「特調委が裁判所の令状なしに『同行命令』のような強力な権限を振るえるようになっており、資料提出要求を拒否しただけで捜索・押収令状の請求を依頼できるようになっている」とし「憲法上の令状主義の原則を毀損(きそん)し、国民の基本権を害する恐れが大きい」と指摘した。特調委員11人のうち7人を野党と国会議長が推薦する人物で構成することについても「国会の多数党が特調委の構成を左右でき、特調委を立ち上げる段階から、災害の政争化が深刻になる」と批判した。
韓国政府は、特調委の代わりに、首相の所管下に「10・29惨事被害支援委員会」(仮称)を作り、被害者や遺族を支援する案を整備したいとした。支援案には、被害者に対する医療費・看病費支援を拡大し、民事・刑事裁判の結果確定を待つことなく被害者や遺族へ賠償金を早期支給し、永久的な追悼施設を建立するという内容を含むこととした。
一方、「10・29梨泰院惨事遺族協議会」は同日、ソウル広場の焼香所で記者会見を開き「遺族がいつ財政支援や賠償を要求したか」「韓国政府が、真相究明の責任からは顔を背けつつ、カネで犠牲者と遺族を侮辱した」と主張した。一部の遺族は、尹大統領の拒否権行使案件を議決した国務会議(閣議に相当)の議場がある政府ソウル庁舎への侵入も試みた。進歩(革新)系最大野党「共に民主党」は「国民が委任した権限を、民意を拒否する手段にするのだから、本当にひどい大統領」と批判した。
キム・ギョンピル記者