韓国政界では与党の内紛とともに、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領夫人の金建希(キム・ゴンヒ)氏によるブランド品授受疑惑が波紋を広げている。大統領室と与党・国民の力の親尹派は、事件の本質は「隠しカメラ工作」であり、大統領夫妻が謝る必要はないと主張する。しかし、同党の韓東勲(ハン・ドンフン)非常対策委員長が迎え入れた人物らが金建希夫人の謝罪を要求し、韓委員長も「国民の目線」を強調するなど党内で意見の差が際立ち、大統領室が「韓東勲辞任」を要求する前代未聞の事態に発展した。

①ブランドバック論争の顛末

 金建希夫人が在米韓国人牧師の崔ジェヨン(チェ・ジェヨン)氏から300万ウォン(約33万3000円)相当のディオール製のポーチを受け取ったのは、尹大統領就任後の2022年9月13日だ。崔氏は文在寅(ムン・ジェイン)政権当時、国家保安法違反の疑いで調べを受けた経歴があったが、それを隠して22年1月から金夫人に接近した。崔牧師は前回の大統領選当時「金建希7時間録音記録」を暴露したユーチューブチャンネル「ソウルの声」の関係者と共謀した。崔牧師はソウルの声関係者が購入したポーチを持ち、金夫人が経営するコバナコンテンツの事務室を訪ねた。崔牧師は腕時計の隠しカメラで金夫人にポーチを渡す様子を撮影し、その映像は23年11月27日に「ソウルの声」で公開された。

②ブランドポーチを受け取った金夫人の法的問題

 ソウルの声と市民団体は、この事件をソウル中央地検と高位公職者犯罪捜査処(公捜処)に請託禁止法違反の疑いで告発した。現行請託禁止法によれば、公職者の配偶者は公職者の「職務と関連して」1回100万ウォンまたは年間300万ウォンを超える金品などを受け取ってはならない。金夫人がディオールのカバンを受け取ったとしても、尹大統領の職務と関連性があるかどうかを検討する必要がある。法律専門家は「金夫人にカバンを渡した牧師が『(尹大統領当選の)お祝いの意味で、公職を要求しなかった』という趣旨で話しており、職務と関連があるとは見なしにくい」と話した。ただ、裁判所の判例は、全ての行政業務を統括する大統領の職務範囲を幅広く認めており、職務との関連性が問題になり得るとの解釈も存在する。

 金夫人が受け取ったポーチに職務との関連性が認められても、金夫人は刑事罰の対象にはならない。請託禁止法に公職者の職務と関連して金品を受け取った配偶者を処罰する条項がないためだ。収賄罪での処罰も容易ではないとみられている。刑事専門の弁護士は「公務員ではない金夫人に賄賂罪を適用するには、尹大統領と『共謀』してブランド品を受け取ったことが立証されなければならない」と指摘した。

 昨年12月には国民権益委員会にも金夫人の請託禁止法違反に関する告発があった。同委は公職者本人に対しては職権による調査が可能だが、公職者の配偶者である金夫人に対する調査の強行は困難で、対応に苦慮しているとされる。

 尹大統領が金夫人の金品授受を知っていながら届け出ていなかった場合は、法律上は請託禁止法違反で3年以下の懲役または3000万ウォン以下の罰金に処されることがあり得る。尹大統領を巡っては「職務との関連性」に加え、「認知していたかどうか」が争点だ。しかし、捜査で請託禁止法違反の疑いがあるとされても、大統領は憲法上内乱・外国為替に関する罪以外の犯罪に対して刑事訴追されることはない。

③取材手法に法的問題はないか

 映像を公開したソウルの声は、取材工作を認めながらも、「相手を罠にはめる取材の危険性や非倫理性よりも国民の知る権利が大きければ認められる」という立場だ。しかし、請託禁止法、通信秘密保護法など現行法への違反だけでなく、言論倫理違反に当たるのではないかと論議を呼んでいる。金夫人にポーチを渡した崔牧師は請託禁止法違反で3年以下の懲役または3000万ウォン以下の罰金に処される可能性がある。ポーチの授受過程を「盗撮」して公開したソウルの声は通信秘密保護法違反などが適用される可能性もある。国家人権委員会には今回の事件に関連し、「違法な撮影は人権侵害に当たる」という決定を下すよう求める陳情があった。

④問題のポーチの所在

 問題のポーチは「返却対象」に分類され、包装も開かないまま、大統領室の倉庫に保管されているという。しかし、大統領室はいつかばんを倉庫に保管したかについて明らかにしていない。大統領記録物法に規定された「大統領への贈答物」は収集の上で大統領記録館に一括して移管することになっているが、大統領室はその過程で問題のポーチを公開することを計画しているという。

⑤ブランド品授受疑惑も「金建希特別検事法」の対象か

 金夫人のブランド品授受疑惑は、昨年12月28日に野党の主導で可決された「金建希特別検事法」とは無関係だ。これまで民主党は金夫人のブランド品をめぐる収賄疑惑も特別検事による捜査の対象になり得るという趣旨で発言してきた。しかし、国会を通過した特別検事法は2009年から12年にかけての「ドイツモータース株価操作事件」を捜査対象として明示している。

周希姸(チュ・ヒヨン)記者、パン・グクリョル記者

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