▲イラスト=UTOIMAGE

 韓国の会社員イさん(29)は最近、チームの会食後、決まって「私たち2人だけで2次会に行こう」と誘ってくる直属の上司Aさんを職場内の関連部署へと告発した。すると数日後、部長が近づいてきて「最近あなたのせいで私たちの部署がうわさされている」とし「Aさんは情が深く、あなたを大切に思う気持ちからそうしたのだ」と言ってきた。その後、部署全体の会食でも部長は乾杯の音頭を取りながら「誤解があれば当事者同士で周囲には分からないよう解決しよう」と促した。誰の目にもイさんのことだというのは一目瞭然だった。その後、他のチームの従業員からは「Aさんが(ハンサムだったらそのままにしていただろうに)カッコ良くなかったから告発したのではないか」「普段笑顔を振りまいていたのがそもそもの過ち」といった嘲笑混じりの言葉も聞かされる羽目になった。イさんはセクハラ告発後、チーム全体の夕食にも招待されなかったという。

 イさんのようにセクハラなど職場でつらい目に遭っても、むしろ逆に肩身が狭くなってしまうケースは少なくない。職場内でいじめを告発したという理由で業務から排除されたり、不当に仕事量が多くなったりする。誰の目にも加害者の過ちは明白なのに、むしろ被害者を「裏切り者」と決め付け、訳もなく「いじめる」ケースもある。

 韓国雇用労働部(日本の省庁に相当)傘下の中央労働委員会が昨年12月13日から30日まで、一般市民1039人を対象にアンケート調査を行った結果、職場において自力で最も解決しにくい悩みについて問う質問に、回答者の42.4%が「いじめ」と回答した。職場内での苦情のトップが「いじめ」であるというわけだ。次いで「差別的処遇」(32.6%)、「セクハラ」(10.6%)、暴言(8.0%)の順で解決するのが容易でないことが分かった。女性であって、30-40代の平社員であるほど、職場内の苦痛に対して多くの関心を抱いていることが分かった。

#.1 女性会社員のBさんは、職場の男性上司Cさんに「マスクを外しなさい。外見を見て採用したのに、なぜマスクをしているのか」「新しく入社した新入社員がBさんよりも若くてきれいだ」といったセクハラ発言を常習的に聞かされた。我慢ができなくなったBさんは、Cさんの行動を職場内の相談所に持ち掛けた。すると、この事実を知ったCさんから「昔なら凌(りょう)遅処斬(人間の肉体を少しずつ切り落とし、長時間にわたって激しい苦痛を与えつつ死に至らしめる処刑法)だ。今後は会食の席に参加するな」と言われた。その後、Bさんには会食の日程が一切知らされなかった。(市民団体「職場パワハラ119」の事例集)

#.2 会社員のDさんは、上司が新しく赴任して以来、毎日暴言に悩まされている。会議の時間に「適性に合わなければ他へ行け」と言われたり、大声で「あなたが書いた報告書は読みたくない」「文脈がおかしい。もっと国語の勉強をしろ」などの言葉を他の従業員の前で聞かされたという。こうした話を繰り返し聞かされたDさんは出勤途中、いっそのこと会社の屋上から飛び降りようかと考えるようになった。(「職場パワハラ119」の事例集)

 しかし、職場内の「いじめ」は一切解決されていないことが明らかになった。今回の中央労働委員会による調査で「勤務する職場には苦情を訴えられる制度があるか」という質問に、会社員の44.3%が「ない、もしくはよく分からない」と答えた。あると答えた回答のうち19.1%だけが「内部制度を通じてよく機能している」と評価した。事実上、会社員の10人に9人が職場内の苦情を会社内で解決するのは困難だと回答したわけだ。

 職場内の「いじめ」がなくならないのは、いじめの被害者がむしろ「いじめ」られたり業務から排除されたりするためだ。そのため、被害を告発できないケースが多い。最近ある大手企業の系列会社でもセクハラ被害が発生した。加害者はチーム長で、被害者はチーム員のEさんだった。ところが、他のチーム員が被害者を助けるどころか、むしろチーム長のために嘆願書を提出するといった驚くべき事実が発覚した。さらにはチーム内でおやつを配る際もEさんには回ってこなかったり、Eさんが送信したメッセージを読んでも返事をもらえなかったりといったことが起こるようになったという。Eさんはもちろん会食の場に呼んでもらえなかったという。

 「職場パワハラ119」によると、職場の上司にいじめられたと告発したことで、これを知った上司から「今後会食には出てくるな」と言われるなどのケースも見受けられた。上司は会食の日程も知らせなかった。「職場パワハラ119」がセクハラ情報とされる205件について分析した結果、職場内でのセクハラ被害者が職場でいじめられているケースは79%に上った。

 職場内での苦情が増え、多様化された原因について、「勤労者の権利意識が高まったため」とする見方もある。今回のアンケートに参加した労働委員会委員や調査官などの専門家560人のうち45.7%が「勤労者の権利意識の向上」を理由に挙げた。続いて「仕事に対する価値観の変化」(37.5%)、「苦情関連の法制度の導入」(10.4%)などの順となった。中央労働委員会は報告書で「最近MZ世代(1980年から2010年ごろまでに生まれた世代)が就職したことにより、仕事と生活を分離しようとする傾向が反映されたもの」とする見方を示した。

 職場内で苦情処理制度が効率よく運営されるために必要なものとしては、「公正な処理過程」(30.8%)という回答が最も多かった。次いで「苦情申告に対する否定的な認識の改善」(25.2%)、「苦情処理の担当者の専門性」(21.2%)の順となった。

 仁川地方労働委員会のチョ・ヨンシク調査官は「職場内での被害を減らすためには、上級者は行動する前に相手がどこまで受け入れられるかを先に把握しなければならない。下級者は自分が許容できるラインがどこまでなのかについてシグナルを送り続けることで相手が理解できるよう、自分にとっての不都合を表現していくべきだ」と説明した。

チョ・ユミ記者

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