▲台北市内で本紙のインタビューに応じた馬英九前総統/台北=李伐飡特派員

 世界の安全保障にとって大きな不確定要素となる台湾総統選が13日に行われる。米中による覇権争いの象徴となった台湾で、親米傾向の与党・民主進歩党(民進党)、親中傾向の最大野党・中国国民党(国民党)のどちらの候補が勝利するかにより、台湾海峡を挟んだ両岸情勢と世界のテクノロジー・貿易・軍事環境が変わるほか、韓半島周辺の安全保障環境も相当な影響を受けることになる。韓日など東アジア諸国だけでなく、世界が今回の選挙に注目している。

 今月2日までに公表された世論調査によると、政権維持を目指す台湾独立派の頼清徳候補(民進党・現副総統)は、中国の支持に受けて8年ぶりの政権交代を狙う侯友宜候補(国民党・現新北市長)を誤差範囲内の3~5ポイント差でリードしている。世論調査の公表が禁止された選挙戦終盤に入り、民進党と国民党は互いに自分たちが「台湾の守護者」であると主張し、支持を呼び掛けている。大勢を固めたい民進党と終盤の逆転劇を狙う国民党、両陣営の代表的な人物に会い、主張を聞いた。この記事は国民党の「ゴッドファーザー」に数えられる馬英九前総統(73)の単独インタビューだ。

 選挙戦終盤の遊説現場を回っている馬英九前総統は10日、台北市内湖区の執務室で本紙の取材に応じ、「頼清徳氏が政権を獲得すれば、新法を制定し、台湾独立を推進する。台湾独立は戦争を意味する」と述べた。懲役刑を受け保釈下にある陳水扁元総統(民進党)を除けば、馬前総統は台湾で唯一生存している歴代総統だ。馬前総統は在任中の2015年、歴史上初の中台首脳会談となる習近平・馬英九会談を成功させた。

 以下は一問一答。

-選挙後の台湾海峡情勢は懸念されるか。

 「過度に心配はしていない。 しかし、今回の選挙で台湾人は民進党が政権を維持すれば、戦争の危険性が高まるという点に気づいただろう」

-馬英九政権の時代と今の中国が違うことは問題ではないのか。

 「民進党が両岸による交渉の基礎である1992年の共通認識(九二共識・一つの中国の原則を維持し、解釈はそれぞれ行うという1992年の合意)を認めないことが問題だ。九二共識は求同存異(相違点と認め、共通点を追求する)という意味を持つ」(民進党は中国の習近平国家主席が就任後、1992年の共通認識の意味が「一国二制度」に変わったととらえ、受け入れられないとの立場を堅持している。一方、国民党は共通認識に基づき、両岸(中台)対話を再開すべきだと主張している)

-頼清徳候補は記者会見で、「台湾は既に主権も持つ独立国家なので、『独立宣言』は必要ない」と述べた。

 「頼候補は骨の髄まで台湾独立を追求しているが、今の状況では『台湾独立』(宣言)が戦争を意味することを知っているので、発言に気をつけている」

-頼候補は完全な台湾独立主義者だと思うか。

 「長い間見守ってきたがそうだ。台湾独立に対する強い意志を何度も強調し、大陸(中国)は既に頼清徳を『救いようのない独立主義者』と評価している」

-頼候補が政権を握れば戦争が起きるのか。

 「はっきりしない。政権獲得の過程での発言にかかっている。頼候補が選挙に勝った場合、慎重な言動で中国との衝突を避けることを台湾人も望むだろう。大陸の『台湾独立』を巡る態度は「戦争も辞さない(不惜一戦)」ということだ。米国も両岸関係がぎくしゃくすることは望んでも、台湾独立を目指すことまでは望んでいない」

-頼候補は任期中に現職の蔡英文総統よりも独立を追求するか。

 「そう思う。台湾は既に主権独立国家だと主張しており、彼の過去の行動を見ても、台湾独立の道に背を向けるとは考えられない。頼候補の政見に『文化基本法』の制定があるが、大陸はそれを台湾独立に向けた立法の試みとみている。改憲は難しいので、新法を作って台湾独立を推進しようとしているのだ」

-中国が台湾の態度とは関係なく、内部的な必要に応じて台湾に侵攻する可能性もあるのではないか。2027年と35年がよく指摘される。

 「Notimpossible, unlikely(あり得なくはないが、可能性は低い)。台湾と大陸の交流が続いており、双方の民間の感情は悪くない。両岸交流で和解を目指すことが可能だ。しかし、民進党は有利な立場に立つために対立状況を望んでいる」

-中国が巨大化したから、武力衝突は避けようと言っているのか。

 「中国本土は全ての面で台湾の数十倍、あるいはそれより大きい。そうした力の差は我々に不利だ。そのため、武力ではなく、対話で解決しなければならない」

-あなたが積極的に仲裁を進めた国民党と第2野党・台湾民衆党による候補一本化(藍白合、藍と白は両党のシンボルカラー)はなぜ実現しなかったのか。

 「誰が総統になり、誰が副総統になるか結論を出せなかったからだ」

-最後まで国民党は「藍百合」を期待しているようだ。

 「両党の候補一本化の試みは終わった。ただ、連立政権の可能性は残している。後から行政院長(首相に相当)など重要なポストなどを譲る方式で協力すればいいので、(国民党に票を集中させる方式で)まずは戦いに勝つことが重要だ」

-今年の米大統領選でトランプ前大統領が当選すれば、台湾海峡の状況はどう揺れ動くか。

 「両岸関係の役には立たないとみられる。トランプ氏は急進的な観点と強硬な立場を持っている。台湾海峡でいかなる譲歩も拒否するだろう。トランプ氏に比べ、バイデン大統領は予見可能だ」

-青年たちの関心が中台問題よりも民生問題に向いている姿がみられる。出生率も非常に低い。

 「青年たちの関心テーマの変化は強くは体感できない。私の総統任期中は、誰も戦争を考えない正常で平和な時代だった。しかし、今は戦争の危険を感じているので、誰が子供を産むだろうか」

-侯友宜候補が当選すれば、半導体産業が中国にシフトするという危機意識もある。

 「あまりに悲観的な考えだ。互恵的な経済・貿易の分野で互いの態度は比較的穏健だ」

台北=李伐飡(イ・ボルチャン)特派員

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