コラム
韓国のとある新米判事が経験したトンデモ事件【コラム】
韓国の大手法律事務所で弁護士として勤務後、昨年判事になった人物が最近経験したことだ。首都圏の裁判所で民事合議部に配属された彼は、1週間に約6件の判決を言い渡していた。大した使命感があったわけでもない。法律事務所で働いていただけあって、簡単な事件ならばそのペースで判決を下すことができそうだったからだ。しかし、同僚の陪席判事らがざわつき始めた。彼に対し「それじゃダメだ」「あなたがそうしたら我々はどうなるのか」と言ったという。全国の裁判所の民事合議部で不文律とされている「週3件」のルールを破ったのだった。 慌てた彼は嫌がらせを受けるのではないかと思い、判決件数を半分に減らした。同僚判事による下向きの「平準化」要求に合わせたのだ。判決をみだりに早めたからといって良いとは限らないが、十分に処理できることをやらないのは明らかに問題だ。
この「3件ルール」は金命洙(キム・ミョンス)前大法院長の在任中にできたものだ。ワークライフバランスを重視する陪席判事が夜勤が常態化していた過去の職場慣行は受け入れられないとしてつくったもので、彼らを率いる部長判事も「仕方ない」として黙認した。裁判官が事実上、仕事を減らす談合を行ったのだ。その後はそれを守らない同僚判事に圧力をかける事態まで起きた。裁判官がそんなことをしてよいのか。まれなケースかもしれないが、そんなムードがあるということ自体が深刻な問題だ。
非常に複雑な事件であれば、週1件の判決を下すことも難しい。問題は定量的に3件ルールを定めたことにある。判事がその数値に合わせるため、簡単な事件の判決を先に下すようになり、自然に長期未解決事件が増えることになったのだ。2年以内に一審判決が出なかった長期未解決の民事事件が金命洙大法院長の就任後5年間で3倍に増えたこともそれと無関係ではない。同じ期間、ソウル中央地裁民事合議部で5年以上判決を下していない「超長期未解決」事件も約5倍に増えた。判事は楽になったが、事件の当事者は裁判遅延に苦しんでいる。今も黙々と最善を尽くす判事がいるが、そうでない判事でいることも事実だ。曺喜大(チョ・ヒデ)大法院長は迅速かつ公正な裁判を最優先課題として掲げているが、現在のムードを打破しなければ裁判遅延問題の解決は難しい。
これまで裁判所は高裁部長判事への昇進制で判事のやる気を刺激してきた。能力がある誠実な判事を次官級の高裁部長判事に昇進させる制度だった。しかし、司法官僚化をあおるという指摘があり、金命洙前大法院長の際に廃止された。長所と短所が明確な制度なので、復活は容易ではない。だからといって方法がないわけではない。しっかりと判事を評価し、再任、異動などの人事で利益と不利益を与えればよい。
裁判所組織法にも判事評定を実施し、その結果を人事管理に反映するという定めがある。しかし、金命洙前大法院長は裁判所長を判事による投票で選ぶ裁判所長候補推薦制を実施し、評定権者である裁判所長は判事の顔色をうかがって評定をまともに行わなかった。そのため、ワークライフバランスにだけ関心を持つ判事が増え、使命感を持って働く判事は「問題裁判官を選り分けることができない状況に脱力感を感じる」と言った。その上、ウリ法研究会、国際人権法研究会の出身者など特定の判事だけを重用する「コネ人事」で一線判事はさらに気力をそがれた。裁判所長が評定をきちんと行わないことは法律を守っていないことになる。今からでも法律に従うべきだ。
判事たちも「3件ルール」を廃止すべきだ。これは暗黙のルールに過ぎず、判事たちが自らなくすと言えばそれまでだ。迅速かつ公正な裁判は憲法が規定した判事の責務なのに、こんなルールがあるということ自体おかしい。判事は単なる職業人ではない。国家を支える司法の中枢だ。判事にはそんな使命感を回復してもらいたい。
崔源奎(チェ・ウォンギュ)論説委員