-原作漫画は日本のバブル期に当たる1990年代に始まりました。

 「私はバブルの恩恵を受けていません。バブルと全く関係ない所で暮らしていました。当時はバブルだということで、日本で初めてグルメブームが起きました。さらに『高い癖』という言葉が流行しました。フランス料理、高価なワイン、どこどこ産の高級マグロなど、とんでもなくお金がかかる食べ物文化が人気でした。私はそういうのが嫌いでした。知り合いだった漫画雑誌の編集者が当時、「とうとう料理までカネがモノを言うようになって本当にイヤだ」と言いました。だから、そうでないグルメ漫画を描こうと始めたのが『孤独のグルメ』でした」

-グルメ漫画なのに文体は「ハードボイルド」ですね。

 「そうです。グルメ漫画はぽっちゃりした人よりもほっそりしている人がカレーライスを食べながら、真剣にやらなければならないと思います。『カレーが足りないからご飯一さじにこれくらいカレーを入れれば、最後までご飯と一緒に食べられる』という真剣さです。料理を作る人も本来、ハードボイルドです。顔は笑っていますが、包丁を手に真剣に作ります。食べる人もハードボイルドに料理に向き合わなければなりません」

-庶民の料理を多く取り上げていますが、ご自身の昼ご飯はいくらぐらいですか?

 「昼食は1000円以内がいいですね。まあ物価高の時代なので、最近は1200円くらいまででしょうか。東京にはなかなかありませんね。東京の有名なそばはランチタイムなら1人前2000-3000円します。でも私は1000円未満のそばを見つけて食べます。手打ちでなければダメなんてこともありません」

■ドラマで五郎を演じる松茂豊さん、前日から食事を抜いて撮影

-高い店を避けるのはなぜですか?

 「緊張するからイヤです。1万円を超える高級料理は見たくもないし、関心もありません」

-ドラマの中の料理は1000円をはるかに超え、主人公は料理をたくさん注文しますが?(五郎は普通、一人で3人前くらいの料理を注文し、すべて食べる)

 「たくさん食べるシーンは私の夢です。小食だから、相撲取りのようにたくさん食べる人がうらやましいんです。漫画は本来、ヒーローを描くものです。『孤独のグルメ』ではたくさん食べる主人公を『スーパーマン』にしました。ただし、主人公は酒が飲めません。弱点がなければ、それもやはりヒーローではありません。その代わり、私はよく酒を飲みます」(久住さんはほとんどのエピソードの終わりに自ら登場し、実際の飲食店の店主と一緒に、いっぱいやりながらリラックスして食事する)

-3人前頼んだら料理が残るのでは?

 「全部食べます。主演俳優の松重さんがもしかしたら食べられないかと思って、前日にスタッフが行って同じメニューを食べてみます。食べられる量かどうかチェックするためです」

-ひとり飯文化が一般的でない韓国でも人気です。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領もファンです。

 「料理人と客にとって、食事は戦争です。料理人はおいしい料理で攻撃し、客はおいしそうに食べて反撃します。ひとり飯ならなおのことそうです。店に入るかどうか決めた瞬間、勝負は始まっています。尹大統領もそうですし、韓国の人々も毎日のように『決定』という戦争をしているではありませんか。だから共感できるのでしょう」

-好きな韓国料理は?

 「韓国には4回ほど行きました。ソウルには40年前、友人と初めて行きましたが、韓国語で『メクチュ(ビール)』という言葉を覚えていき、注文しました。すると、薄く切ったキャベツがつまみで出てきてビックリしました。ラベルも付いていないマッコリ(濁酒)も印象的でした。屋台に行ったら、隣のテーブルの人が実にたくさん飲んだり食べたりしていて驚きました。5-6年前には息子とソウルに行きましたが、その時のうどんが本当においしかったです。好きな食べ物はキムチ。全州だったと思うんだけど…少し酸っぱくて、その酸味が絶品でした。去年はソウルの光化門にあるブゴグク(干しダラのスープ)の店に行きました。フグよりもおいしかったです」

成好哲(ソン・ホチョル)東京支局長

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