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人気ドラマ『孤独のグルメ』原作者・久住昌之さん、「ひとり飯」を語る(上)
「いい料理をどのようにおいしく食べるか。この問題は一つの戦争です」。昨年12月7日、東京・吉祥寺で会った日本の人気ドラマ『孤独のグルメ』の原作者・久住昌之さん(65)は「おいしい食事とは、出す人の『いい料理』という城をどのように陥落させるかという戦いです」と言った。
久住さんは1994年から雑誌に連載された『孤独のグルメ』の原作者だ(作画を担当していた谷口ジローさんが2017年に亡くなったため、漫画の連載は中断した)。これをもとに同名のグルメドラマが2012年から制作され、2022年までにシーズン10まで放送された。人気俳優の松重豊さんが主人公「五郎」(井之頭五郎)を演じ、日本各地、時には韓国など海外の飲食店も訪れるこのドラマは、韓国でも大きな人気を呼んでいる。久住さんは「私はグルメではありません。どこのワインだとか、どこのシェフのフランス料理だとか、値段の高い店に行くなんてやったこともないし、嫌いです」と言った。
■食べることは旅…いつもときめいて胸がドキドキ
-おいしい料理の定義とは?
「まず、緊張せずにリラックスして食べるということです。いい料理も初めて会った地位の高い人と一緒だったら緊張しておいしくない。もう一つは、おなかがすいた時に食べればいいということです。作品では『腹が、減った…』と表現されています。ドラマの主人公・五郎を演じる松重豊さんは、前日から何も食べずに撮影に臨みます。とてもおなかがすいているので、本当においしそうに食べますね。『青空までおいしい』という風景が食べるシーンに込められています」(ほぼすべてのエピソードで、五郎は食事をする前に切羽詰まった表情で「腹が、減った…」と独り言を言う)。
-主人公は「ひとり飯」ばかりですね。
「韓国はひとり飯をあまりしないと聞きました。韓国の店はひとり飯をするにはおかずが多すぎます。日本は普通、一人で飲食店に入っても気が楽です。ああ、でも日本にも韓国みたいな所もありますね。旅館に泊まると夕食が付いてきますが、量が多い。会席料理のようなコースで出てくるので、食べきれない。聞いてみたら、『価格が決まっているからしかたない』と言われました。実にイヤなシステムです。韓国の店もおかずをもっと減らして、ひとり飯が気楽に食べられるような雰囲気に変わってほしい。何年かたてば、ひとり飯が好きになると思います」
-『孤独のグルメ』によく出てくる路地裏の隠れた店には選ぶ基準がある?
「『店を選ぶ基準を作らない』というのが基準です。例えば、のれんや看板を見て決めるとしたら、おいしい店であるという別のヒントを逃してしまいます。外から見ても分かる『いい店』のヒントはたくさんあります。店の入口の脇に靴がきれいに並べてあるとか、ほうきやちり取りがきちんと隅に置かれているとかです。毎日、店の入口前をきれいにしている人が作った料理はおいしいですから」
-以前、料理を旅にたとえていましたね。
「知らない所へ行く旅には始まりと終わりがあり、その途中で出会いもあります。知らない所だから不安もあります。知らない店に入る時も、そういう旅のような気分になります。ドキドキしますよ。その土地の文化も、歴史も知らないまま、胸を躍らせて入ります。そして、必ず元いた所に戻るんです。旅、そして料理とはそういうものです」
-作品に名ゼリフがたくさんあります。ご自身が一つだけ挙げるとしたら?
「私は自分が書いたセリフは全部好きです。書いた後で、『バカみたいだなあ』と笑いながらまた書きます。漫画に五郎が店で怒るシーンがあります。そのセリフが『見てください! これしか喉を通らなかった!!』というものです。店主がアルバイトの学生をしかった時、五郎が腹を立てた時のセリフです。食事をしている前で、店主がアルバイト学生をしかったせいで料理がまずくなり、全部食べられなかったという意味です。実はそういう店もないわけではありません。料理を食べているのに、その目の前でしかってはいけません。私はしかられている人の気分になってしまうので、おいしくなくなる。モノを食べる時は、静かで豊かでなければなりません」