▲クァク・キルソプ「ワン・コリア・センター」代表・国民大学兼任教授

 国家安全保障は理念と党派を超越すべき至高の領域だ。しかし現実はかなり違う。残念だという思いにとどまらず、心配になる。特定のイデオロギーや固定観念に傾倒した極端な主張が国論の分裂を生み、北朝鮮はこうした脆弱(ぜいじゃく)な空間へ巧みに潜り込む。用語混乱戦術が横行している。

 最も代表的なのは、自主・平和・民族大団結だ。北朝鮮は、韓国と違って▲「自主」を在韓米軍撤収▲「平和」を韓米合同軍事演習の中止と韓半島非核地帯化▲「民族大団結」を国家保安法廃止と共産党の自由な活動の保障―などと解釈し、その履行を要求してきている。韓国社会は、何とも思わずこの標語をそのまま使っており、一部の勢力は北朝鮮の主張に同調している。「主体」「わが民族同士」「戦争か平和か」といったレトリックも、同じ線の上にある。これから、韓国人が使っている国家安全保障関連の用語の中で、国体に合わなかったり論争の余地があったりするものを概観し、代案を提示してみたい。

 第一に「反国家勢力」を「反憲法勢力」あるいは「反大韓民国勢力」と改称する必要がある。反国家勢力という単語はあまりに包括的で、論争を呼び起こす余地があるので、より特定化しようというわけだ。国家は領土、主権、国民の3要素さえ備えればよいので、社会主義を志向する政府も国家だといえる-という問題点がある。そして、一部で主張しているように「一体、国家のためではない人間がどこにいるのか? 民主主義を損なう魔女狩りだ」という反論に対して返答に窮しかねない。従って、われわれが志向する国は社会主義や連邦制統一国家ではなく、韓国憲法前文と第4条に規定する「自由民主的基本秩序」を基調とする国家、統一であるという点をより明白にするのがよい。

 第二に、「対北心理戦」を「北朝鮮自由化運動」あるいは「対北伝播(でんぱ)プロジェクト」と改称することが望ましい。「心理戦」は軍事用語であって、政府と民間が使用すると「戦」という単語によって好戦的に映りかねない。従って、韓国軍と国家情報院(韓国の情報機関)を除くその他の政府部処(省庁に相当)と民間は、もっとソフトな表現を使うのがよい。現在、対北心理戦は金正恩(キム・ジョンウン)体制を盲目的に非難するよりも、人類の普遍的価値や韓流・外部世界のニュースを伝えることに重点を置いているからだ。

 第三に、金正恩を呼称する際は「国務委員長」よりも「党総書記」または肩書なしの「金正恩」と呼ぶ方が韓国憲法の精神と国民感情により合っている。韓国憲法第3条は「大韓民国の領土は韓半島とその付属島しょとする」と定めている。従って、北朝鮮は国家ではない。南北関係の特殊性を考慮して、北朝鮮を国家に準じて礼遇しているに過ぎない。従って金正恩を呼称する際は、国の最高指導者を象徴する国務委員長ではなく、党の首領という意味で「党総書記」と呼ぶのがふさわしい。

 金正恩の核の脅しは度を越している。韓国社会の対立は、時間がたつほど多様かつ深刻になっている。これまでになく、正確な情勢観と現実認識が重要な時期だ。こうした状況下で私たちが大韓民国を金正恩の統一戦線戦術の策略から保護し、より良い自由統一韓国を主導的に建設していくためには、安全保障用語についての正しい理解と正確な使用が重要だ。

 今やまさに、ネーミング(naming)の時代だ。韓国国民の安全保障意識を高めて一つに結集させていく上で、一種の「ブランド・アイデンティティー効果(brand identity effect)」、すなわち消費者の態度を好意的に変えて購買を増進させる、密度ある努力が加味されねばならない。「すべからく、人は名前をうまく付けなければならない」という亡父の言葉が思い出される。

クァク・ギルソプ「ワン・コリア・センター」代表・国民大学兼任教授

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