▲イラスト=朝鮮デザインラボ・Midjourney

 海外サッカーを見るのが好きなファンは、北朝鮮の韓光成(ハン・グァンソン)選手のことを記憶している。2015年に英国ガーディアン紙が選ぶ「次世代のサッカー選手50人」に名を連ね、世界の注目を集めた。満18歳だった2017年にイタリアの1部リーグ・セリエAのカリアリに入団した。オーストリア・ブンデスリーガでプレーした朴光竜(パク・クァンリョン)、イタリア2部リーグ・セリエBでプレーした崔成赫(チェ・ソンヒョク)もいたが、韓光成の才能は別格だった。20歳でイタリア最高の名門、ユベントスに合流した。

 当時、韓光成は自身のインスタグラムに「夢はかなう!」と書き込んだ。2002年のワールドカップで韓国代表チームが掲げていた応援スローガンだった。韓光成は、韓国ファンの応援コメントにも誠意を尽くして答えた。「兄さん、もうちょっとがんばって、レアル・マドリードに行きましょう」というコメントに「ありがとう。もっと一生懸命やります!」と答えた。ほどなくしてこのアカウントは非公開となったが、その理由は分からない。

 韓光成の「欧州の夢」はそこで終わった。6カ月後、カタールのアル・ドゥハイルSCに突然送られた。ユベントスのU23(23歳以下)チームで20試合に出場するなどチャンスを得ていたところだったので、なおさら残念だったろう。年俸をたくさんもらえる中東でプレーせよという北朝鮮当局の意向があったのだろうと推測されている。海外でプレーするプロ選手の俸給は、北朝鮮の主な外貨獲得手段の一つだ。あるイタリア・メディアは「韓光成はカタール行きの飛行機で涙を流した。彼は欧州でのプレーを望んでいた」と記した。

 韓光成はカタール、マレーシアでプレーしたが、国連安保理の北朝鮮制裁の対象になり、2021年に北朝鮮へ戻った。彼の年俸が北朝鮮の核実験、弾道ミサイル開発に使われているという判断だった。韓光成が受け取っていた年俸20億ウォン(現在のレートで約2億2000万円)相当は、そのまま北朝鮮当局に送られていたという。1カ月の生活費200万ウォン(約22万円)程度が、韓光成の取り分。チームメートらは、同じ年ごろの他の若者と変わらない平凡な青年だった韓光成を覚えている。ただし、北朝鮮関連の質問が出ただけで、逃げるように話を打ち切ったという。「警護」と呼ばれる人間が一人、いつも韓光成に同行していた点も特殊だった。

 それからおよそ2年間、さっぱり音沙汰なかった韓光成が、最近になって国際的な舞台に現れた。2026北中米ワールドカップのアジア2次予選で、シリアとの試合に先発出場したのだ。北朝鮮A代表チームにとって、3年ぶりの国際舞台復帰戦でもあった。第2節のミャンマーとの試合では1ゴール1アシストを決め、チームを6対1の大勝利に導いた。動きは少し鈍って見えたが、鋭い感覚だけはそのままだった。

 自由に欧州の舞台で走っている、同じ年ごろの韓国選手・李康仁(イ・ガンイン)の姿を見て、韓光成はどう思うだろうか-と気になった。韓光成の才能は李康仁に引けを取らない。いや、韓光成だけだろうか。貪欲な独裁への追従のせいで花を咲かせることのできない北朝鮮の才能は、サッカーにとどまらずさまざまな分野で数えきれないほどいるだろう。北朝鮮に生まれたという理由だけで、人生を奪われなければならなかった人々だ。その無念さはどこで、どのように償われるのだろうか。

イ・ヨンビン記者

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