▲先月29日、竜山の大統領室庁舎で2030年釜山万博の誘致失敗に関する対国民メッセージを発表する尹錫悦大統領。/news 1

 2000年代、南北首脳会談に向けて準備していた国家情報院(国情院)は「レッドチーム(red team)」を設置した。北朝鮮の立場で考え、判断するチームだ。金正日(キム・ジョンイル)総書記と話し方や行動がそっくりそのままの「影武者」もいた。国情院の北朝鮮専門家らが「集団思考」と「希望的観測」に流されないようにするための組織だ。元情報当局者は「実際に平壌で交渉すると、『レッドチーム』の中で想定されていた言動が北朝鮮の言動にぴったり当てはまるケースが少なくなかった」として「全員がAと言っているときに、敵の立場でBと主張する人が1人はいなければならない」と話した。中世のローマ教皇庁で枢機卿候補者の欠点ばかり探していた「悪魔の代弁者」が、現代のレッドチームに当たるだろう。

 あるゾンビ映画では、イスラエルだけが唯一ゾンビの襲撃を防ぐ壁を築いた。劇中には「イスラエルの情報機関はレッドチームを経て情報を判断する。10人のうち9人が『違う』と言っても、レッドチームの1人は『正しい』と言って関連情報を集める。レッドチームのおかげであらかじめ壁を築くことができた」という内容が登場する。先日イスラエルが、準軍事組織にすぎないハマスに陸(バイク)、海(水上艇)、空(パラグライダー)の全方面から奇襲攻撃を受けたのは、「情報の失敗」が招いた惨事だ。「想定外」の敵の挑発に手を止めたレッドチームの失敗といえるだろう。

 2030年国際博覧会(万博)の誘致合戦で、外信各社は早い段階で「サウジが120票を確保した」と報じていた。釜山誘致を目指す韓国の外交当局や大企業各社も、当初は「厳しいが最善を尽くす」というムードだった。しかし、ある瞬間から「大きく追い上げた」「逆転に期待」という言葉が飛び交うようになった。根拠を尋ねると「韓国の代表団が行くと、サウジの『魚』(カネ)よりも韓国の『魚を捉える方法』(技術)のほうに関心を示していた」「K-POPが好き、という反応が見られた」「サウジの企業は知らなくても、サムスンとLGは皆知っていた」ということだった。そのような声が「韓国支持」を意味するのか疑問だったが、関係者らの自信はどんどん高まっていった。実際の投票でサウジが獲得した119票は「120票確保」という外信の報道とほとんど差がなかった。万博関係国の気流は何も変わっていないのに、韓国政府の判断だけが変化していたのだ。世界に数多くある韓国の在外公館は、ソウルにいったい何を報告していたのか。今になって「釜山が厳しいというのは初めから分かっていた」と口にする政府当局者や大企業役員も少なくない。卑怯(ひきょう)だ。

 今回の誘致合戦で韓国政府はレッドチームを設置していたのだろうか。大統領が声高に何かを言えば、全員が沈黙していたのではないのか。万博だけではない。ソウル江西区長選挙でも、長官候補指名者の辞退騒動でも、10人のうち9人が「イエス」と言う中で残りの1人が無条件で「ノー」と言って理由を冷静に説明していれば、大惨事のような結果は免れたはずだ。

 どんなに有能な集団でも、常に合理的な決定ができるわけではない。息の合った組織であればあるほど、集団思考の過ちに陥りがちだ。「集団思考」と「希望的観測」が重なれば、情報判断はでたらめになる。ソウル大、海外の博士、法曹界出身者の多いこの政府で、「ノー」といえるレッドチームは稼働しているのだろうか。レッドチームを初めて考案したのは米国陸軍だという。上下関係が厳しく、意思決定の構造が閉鎖的であればあるほど、レッドチームが必要だ。そのような組織では反対意見を出しにくいからだ。不利益を被らずに反対の声を上げられるシステムが必要なのだ。

 総選挙が近づいている。今の政府・与党は前政権のように現金をばらまくことはできない。教育・福祉・労働・環境などの分野の革新的政策を掲げて票を獲得しなければならない。北朝鮮も「想定外」の方法で挑発してくる可能性がある。万博と同じようにしていれば、再び失敗する。政策を立てるときも、選挙に臨むときも、誰か1人が必ず「ノー」と言うレッドチームを設置してはどうだろうか。

アン・ヨンヒョン記者

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