▲イラスト=UTOIMAGE

 厳しい人口減少の危機に直面した今、最も急がれる少子化対策は何かと聞かれたら、真っ先に「仕事と家庭の両立を可能にする手厚い対策」を挙げるだろう。断言しておくが、働く親に対するまともな支援がなければ、韓国は少子化の危機を脱することはできない。

 子育ては少子化問題の核心だ。人口が増えていた産業化の時代には、子育ては全面的に女性の責任だった。それが可能だったのは、当時はワーキングマザーが少なかったからだ。しかし、20-30代の女性の就業率が70%に迫り、共働き世帯が5割を超えた今の韓国では不可能なことだ。個人に与えられた限られた時間の中で、代替関係にある仕事と育児を並行して行うためには、誰かが代わりに育児をするか、労働時間を減らして育児に専念するという方法しかない。解決策は単純だが、他人に育児を任せれば費用が掛かるし、仕事を減らせば所得が減少することになる。こうした機会費用が大きくなればなるほど、出生率(合計特殊出生率=1人の女性が生涯に産む子どもの推定数)は当然低下する。

 すでに知られているように、数十年前に同じ問題に直面していたスウェーデンやドイツなど欧州の先進諸国は、積極的に保育施設での子育て支援を増やすとともに、育児休業など仕事と育児の両立支援を拡大した。その結果、現在では女性の就業率は高く、出生率も韓国より高い水準をキープしている。韓国政府の政策が目指す方向も、手本にすべきこれらの国々と変わらない。代表的なものとして、保育施設での乳幼児の子育て支援は2012年から条件なしの無償保育に拡大された。また、育児休業制度は1987年に導入されたが、2001年からは雇用保険基金から育児休業給付金が支給されている。

 ところが、表面的には制度が整っているように見えるものの、他の先進国と比べると、2歳未満の乳幼児の保育園利用率(韓国56%、OECD〈経済協力開発機構〉平均35%)は非常に高いのに、出生児100人当たりの育児休業者数(韓国29人、OECD平均68人)は非常に低いというアンバランスな子育て環境が出来上がってしまった。保育施設での子育て支援を強化したとしても、親子が一緒に過ごす時間を増やすのはさまざまな意味で重要だ。これは子育て方法の選択肢が増えたこととは別に考える必要がある。特に、乳児期に形成される愛着関係は、子どもの情緒と社会的発達に影響を与える上、家族がより大きな幸せを感じられるようになるため親にもプラスの効果がある。これは明らかに、より健康的で生産的な社会を構築するための土台になるはずだ。

 このような重要性にもかかわらず、現段階では仕事と家庭の両立支援策は親にとって十分なものとはなっていない。育児休業を取得するにも周囲の目を気にせねばならず、もしかしたら不利益を被るかもしれないと考えると気軽に申請することもできない。育児休業給付金の上限が通常の月給の5割にも満たない現状では、育児休業を取って子育てをしようという気にはなれないのが現実だ。さらに、育児休業給付金の25%は職場復帰後6カ月連続で勤務した後に支給されるため、子育て中の生活費のやりくりをさらに困難にしている。また、韓国の男性の育児休業取得率は先進国に比べて顕著に低い。こうした現状も、韓国の女性の育児負担が依然として大きいことを物語っている。ほかにも、子育て中のフレックスタイム勤務の支援拡大や、雇用保険未加入者が置き去りにされている問題、中小企業の代替人材確保の困難さ、企業文化の改善など、早急に改善すべき問題は多い。

 政府が仕事と家庭の両立の重要性や改善点に気づいていないはずはない。画期的な転換が必要なはずなのに、それができない最大の理由は、財源確保が難しいからだ。予算のほとんどを、枯渇の危機にある雇用保険基金から充当しているため、増額が困難だ。そうこうしているうちに、合計特殊出生率は0.7をも下回るという状況に追い込まれるだろう。手遅れになる前に、一般会計からの繰入金を積極的に増やすなり、財政調整によって未来の世代のための新たな基金を創設するなり、何らかの決断を下すべきだ。

 尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は11月1日、全国女性大会で「子育てに確実に財政を投入し、女性の社会活動を制約する要素を取り除いていく」と明言した。仕事と家庭の両立における国の責任を強調したのだ。国のやり方に革新的な変化がない限り、少子化問題は絶対に解決できない。

ホン・ソクチョル低出産高齢社会委員会常任委員(ソウル大経済学部教授)

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