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 韓国大統領室国家安全保障室の趙太庸(チョ・テヨン)室長は3日、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長の娘ジュエ氏について「(今後は)後継者と見なし、検証する必要があるだろう」と述べた。今年10歳のジュエ氏が昨年初めて登場した時点で韓国政府内では「後継者となる可能性は非常に低い」と考えられていたが、最近北朝鮮がジュエ氏を前面に出し偶像化を本格的に進めていることから、趙室長の言葉は「判断を見直した」と解釈できそうだ。

 趙室長はこの日「KBS日曜診断」に出演し「金正恩氏とキム・ジュエ氏の二人の写真に注目して見ると、ジュエ氏が中央に位置し金正恩氏がその後ろに立つ写真も労働新聞に掲載されていた」とした上で、上記のように述べた。趙室長は「少ししっくりこないし、もう少し確認すべき点があるので100%確信はできないだろう。つい先日まで『キム・ジュエは果たして後継者なのか』と考えていたとすれば、今は『キム・ジュエは後継者のようだが、それは確かか』と確認する段階だ」と説明した。

 趙室長が言及した写真は、先週の航空節(11月30日)に金正恩氏父娘が共に空軍の主要施設を視察し、パイロットらの訓練を見守る様子が撮影されたものだ。この写真でジュエ氏は金正恩氏と同じくサングラスと皮のコートを着用していたが、その位置は金正恩氏の前だった。ジュエ氏はこれまで数十回にわたり北朝鮮メディアで写真が公開されてきたが、そのときは常に金正恩氏の隣か後ろだった。ところが今回ジュエ氏は主人公のような立ち位置となった。北朝鮮体制の特性上、金正恩氏が後ろに立つ写真が公開されるのは非常に異例だ。

 ジュエ氏は昨年11月18日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17型」発射現場にはじめてその姿を現した。金正恩氏の手を強く握った当時の様子は今とは違いかなりあどけなさが残っていた。その最初の登場から1年間、ジュエ氏は父に同行して各地の軍事施設を視察し、部隊を査閲し、主席壇に座るなどその立場は徐々に高くなった。ジュエ氏は最初に登場した時はヒールのない赤い靴を履いていたが、今回はヒールの高い靴を履き母の李雪主(リ・ソルジュ)氏と同じヘアスタイルで登場した。その呼称も「愛する子弟」から「尊貴な子弟方」へと一段階高くなった。ジュエ氏が初めて登場した11月18日は「ミサイル工業節(記念日)」に指定された。最近の北朝鮮各地の講演会ではジュエ氏を偵察衛星打ち上げ後から「朝鮮の新星女将軍」と呼称していることも伝わっている。

 ジュエ氏の登場が相次いだことで、韓国の北朝鮮専門家らは徐々に「キム・ジュエ後継者説」の可能性に注目するようになった。韓国与党・国民の力の太永浩(テ・ヨンホ)議員はフェイスブックに「金正恩氏の娘を人工衛星打ち上げ成功と共に偶像化していることが事実であれば、北朝鮮指導部の最高位層で後継者に任命する内部の手続きが終わったことを意味する」「北朝鮮の基準や常識から考えてもあまりに先走り過ぎだが、北朝鮮住民も金正恩氏の健康状態に問題が生じたため、後継者の任命を急いだと判断するはずだ」との見方を示した。

 韓国情報機関のある幹部OBは「これまで北朝鮮がキム・ジュエを表に出した状況から考えると、金正恩氏と李雪主氏の間に息子は生まれなかったようだ」「キム・ジュエを幼い時から登場させることで、後継者になるための準備期間をそれだけ長くすることができ、『娘』を前面に出すことへの住民の拒否反応を和らげ、自然に受け入れさせる効果を狙ったのかもしれない」と予想した。韓国統一部(省に相当)のある幹部OBは「過去には金正日(キム・ジョンイル)総書記が死んだ時に備え、妹の金敬姫(キム・ギョンヒ)氏がその役割を継承できるナンバー2の立場となった前例がある」「白頭血統が重要なのであり、男女の区分は重要ではないのだろう」と説明した。

 その一方で今なお家父長的な文化が強い北朝鮮社会の特性から考えると、キム・ジュエ氏が後継者となる可能性は低いとの見方も根強い。国家情報院のあるOBは「キム・ジュエを登場させる北朝鮮メディアの報道が相次いでいるが、これには娘を愛する金正恩氏に幹部らがへつらうこと以上の意味はない」と指摘した。NK知識人連帯の金興光(キム・フングァン)代表も「北朝鮮ではまだ女性指導者などあり得ないし、まだ40代前の金正恩氏の若さを考えると、後継者について語ることも考えられない」「キム・ジュエは金正恩氏の『イメージ政治』の手段に過ぎない」との見方を示した。

キム・ミンソ記者

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