▲米サンフランシスコでのAPEC首脳会合で尹錫悦大統領と岸田首相が握手を交わしている/聯合ニュース

 韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が今年3月、日帝による徴用工被害者の賠償問題で「第3者弁済」方式を採用する意向を明らかにしてから8カ月が過ぎた。尹大統領の決断は2018年10月、韓国大法院による徴用工賠償判決で冷え込んだ韓日関係を一気に改善させた。8月には米大統領の別荘であるキャンプデービッドで韓米日のパートナーシップに関する3カ国の共同声明を生む土台にもなった。

 米国を始めとする国際社会は第3者弁済案が韓日和解の契機になったことを比較的高く評価しているが、韓国国内では賛否論争が依然続いている。10月に韓国の東アジア研究院(EAI)と日本の言論NPOが共同で実施した世論調査によると、第3者弁済案については、韓国では「評価する」28.4%、「評価しない」34.1%、「どちらでとも言えない」29.7%だった。日本では「評価する」35.2%、「評価しない」16.7%、「どちらでとも言えない」17.1%だった。

 韓国行政安全部傘下の日帝強制動員被害者支援財団は今月までに大法院の賠償判決を受けた徴用工被害者15人のうち11人に賠償金と遅延利息を支給した。73%の原告が第3者弁済案を受け入れたことになる。生存者で唯一受け入れを決めた原告は、大法院で係争中の三菱重工業に対する特許権特別現金化命令を求める訴えも取り下げた。

 原告は賠償金と5年間の遅延利息を加え、1人当たり2億3000万~3億1000万ウォン(約2650~3570万円)を受け取ったという。財源は1965年の日韓請求権協定当時に支援を受けたポスコが寄付した40億ウォンに基づいている。

 しかし、原告15人のうち生存者2人を含む4人が賠償金の受け取りを拒否した。被害者支援財団は生存者と死亡した2人の遺族10人の居住地の裁判所12ヵ所に賠償金を供託しようとした。しかし、裁判所供託官が「債権者の意思に反して第3者が弁済を行うことはできない」とする民法469条の規定を根拠に供託申請を認めなかった。被害者に受け取る意思がないのに第3者が供託を行うことは認められないとの判断だ。

 これに対し、被害者支援財団は民法487条の「債権者が弁済を受けないか、受けることができない場合、弁済の目的物を供託できる」という条項を根拠に「供託官の裁量を超えている」として提訴した。被害者支援財団は一審で敗訴、現在二審が争われている。韓国政府の弁済案に反対する「韓日歴史正義平和行動」は「政府の供託異議申し立てを裁判所が棄却したことは、事実上尹錫悦政権の第3者弁済方式に対する破産宣告」だと主張する。 司法関係者は判断が大法院まで持ち越されるとみている。

 結局、「第3者弁済」方式を採用した尹錫悦大統領の決断が完全に成功するかも含め、今後の韓日関係も大法院の判断にかかっているとの観測が聞かれる。大法院は1965年の韓日請求権協定、徴用工被害者に6000億ウォンを補償した05年官民委員会の決定を無視した賠償判決で韓日関係が悪化するきっかけをつくった。日本とは異なり政府の決定に積極的に介入する「司法積極主義」の影響を受けたものだったが、こうした傾向が続けば、韓日関係が再び悪化する材料になりかねない。

 実際に韓国政府の第3者弁済案を拒否した原告4人は大法院に速やかに「特別現金化命令」を出すよう要求している。大法院による賠償判決後、被告企業が賠償に応じないとして、原告のイ・チュンシク氏は日本製鉄の株式を差し押さえた。ヤン·クムドク氏(女性)ら3人は三菱重工業の商標権と特許権を差し押さえた。それでも被告企業が賠償に応じないため、差し押さえ命令に続く特別現金化命令を申し立てた。

 裁判所は21年9月、三菱重工業の韓国国内での差し押さえ財産に対する売却命令を出した。しかし、三菱がそれを不服として抗告、再抗告。事件は22年4月から大法院で係争中となっている。徴用工被害者支援団体は大法院が韓国政府の顔色をうかがっていると批判し、一日も早く現金化命令が下されるべきだと主張している。

 18年に大法院で原告が勝訴した事件と類似する徴用工賠償訴訟も全国で約80件が進行中だ。原告は約1200人に達する。政府はこのうち約200~300人が証拠を全て備えており、勝訴する可能性があるとみている。

 今月9日にも徴用工被害者のチョン・シンヨン氏(女性)が三菱重工業を相手取り起こした損害賠償訴訟の審理が光州地裁で行われた。チョン氏が直接出廷し、「日本政府と三菱重工業は心からの謝罪と賠償をすべきだ」と要求した。チョン氏は14歳の時、三菱重工業の名古屋航空機製作所で勤務したという。

 徴用工賠償問題に詳しいある専門家は「原告4人に対する賠償金供託が最終的になされず、被告企業の資産の現金化命令も大法院で認められれば、韓日関係は再び悪化する恐れがある」とし、「この際、国民の共感を土台に特別法をつくるか、他の方策を考慮すべきだ」と指摘した。

■「被告企業は来年の総選挙まで動かない」

 尹錫悦大統領が提案した「第3者弁済案」の成功と韓日関係の安定的発展は、韓国側の努力だけで実現できない。日本政府、市民社会、 被告企業の呼応が絶対的に必要だが、これまでの日本の反応は韓国の期待する水準には満たないと評する見方が多い。岸田首相は5月にソウルを訪問し、徴用工被害者に「胸が痛い」と話した。 同月、広島で行われたG7で尹大統領と韓国人原爆犠牲者慰霊碑を共に訪れたことが歴史問題に関連した唯一の立場表明だ。

 今年3月、韓国の朴振(パク・チン)外交部長官は第3者弁済案を発表するに当たり、日本企業の参加と関連し、「コップに例えると、水が半分満たされたと思う」とし、「日本の呼応によってコップが満たされることを期待する」と述べたが、そうはなっていない。 日本の財界を代表する経団連が韓国経済人協会(韓経協)と共に未来パートナーシップ基金に10億ウォンずつ拠出したこと以外には大きな動きがない。

 被告企業の日本製鉄、三菱重工業はまだ参加意思を表明していない。 日本の消息筋は「日本でも尹大統領の第3者弁済案に呼応すべきという動きがあるが、両社は依然として社内で議論中だと聞いている」と話した。 日本国内では「元々1965年の韓日請求権協定で完全に解決された問題を韓国が蒸し返しておいて、韓国がそれを解決したのだから、なぜ日本が呼応しなければならないのか」という雰囲気も影響を及ぼしている。日本では被告企業が呼応するにしても、来年4月の韓国総選挙前には動かない可能性が高いとみている。 「日本企業が尹大統領と与党の勝利を支援するために総選挙前にカネを払った」という論争に巻き込まれたくないからだ。

 世宗研究所の陳昌洙(チン・チャンス)日本研究センター長は「歴史問題に対する日本側の消極的な対応は安倍晋三首相以後、容易には変わらない」としながらも、「韓日は未来を共につくっていかなければならないため、被告企業を含む日本社会がより積極的な姿勢で取り組むべきだ」と話した。

李河遠(イ・ハウォン)記者

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