▲朴裕河教授が10月26日、ソウル市瑞草区の大法院で、著書『帝国の慰安婦』で日本軍慰安婦被害者を「売春」などと表現したことに関連して無罪判決を受けた後、法廷から出てきたところ。/写真=聯合ニュース

 慰安婦のハルモニ(おばあさん)の名誉を毀損(きそん)したとして刑事告発されてから9年4カ月を経て、大法院(最高裁に相当)で無罪の趣旨の破棄差し戻し判決を受けた。判決文では、私の執筆動機と文章の意図が明確に把握されており、学問と歴史に対する深い考察も含まれていてうれしく、またありがたかった。

 30年前のことが思い出される。1990年代初頭、日本留学の最後のころ、慰安婦問題が初めて提起された。東京で開かれた慰安婦証言集会で、私は無料で通訳ボランティアを務めることになった。涙を流しながら通訳した経験が、まさにこの問題との最初の出会いだ。帰国後、「ナヌムの家」を訪れてハルモニたちの話も聞き、証言集も読む中、私は世間で慰安婦問題が消費される方式に少しずつ疑問を持つようになった。2005年に出した著書『和解のために』で私は、そうした疑問を初めて世に提起した。メディアからも好意的に取り上げられ、「文化観光部(省に相当)優秀教養図書」にも選定されたが、本はあまり売れず、広くは読まれなかった。

 その後も慰安婦問題を巡る韓日対立は激化していくばかりだった。韓国国内に少女像が作られた直後から、私は慰安婦問題についてもう一度きちんと書かなければと考えた。声の大きな両極端の戦いに動員され、全く同じ声を強める人々ばかりが増えていく消耗的な現実にブレーキをかけたかった。

 長い時間をかけて慰安婦のハルモニたちと会い、関係書籍の大部分を読んできた私から見るに、ハルモニたちの生涯をまともに見ようとする人はほとんどいなかった。大切に考えているようでいて、実情は、ハルモニたちは疎外されており、慰安婦問題が解決しない原因はほとんどそこにあると私は考えた。2013年に『帝国の慰安婦』を出版し、再びハルモニたちと会った。彼女らは依然として疎外されていた。「敵は100万、私は1人」「挺(てい)対協抜きで補償を直接受けたい」というハルモニたちの吐露を聞き、私はこれまでの疑問と判断に間違いはないという確信を得た。

 両極端を批判する私の著書を、その両極端は、自分たちの既存の主張に合わせて誤読した。右派の一部は、私が自分たちと同じく「慰安婦は売春婦」だと同意したとして歓迎し、左派の一部もまた、慰安婦を売春婦と非難したとして私を攻撃した。ついには、私が慰安婦のハルモニたちと会うことを露骨に嫌がっていた「ナヌムの家」は、私がハルモニたちの名誉を毀損したとして刑事・民事・仮処分の訴訟を起こした。本を出してから10カ月が経過していた。私と最も親しかった慰安婦のハルモニが物故してから、わずか1週間後のことだった。

 大法院の今回の判決文は「強制連行否定、自発的売春、積極協力を語るために当該表現を使用したわけではない」と明確に記してくれている。

 今回の事件は、慰安婦のハルモニたちと私の戦いではなく、あのような周囲の人々と私の戦いだった。そして、あの周囲の人々の真の不満は、自分たちとは「違う解決方法」が模索され、受け入れられるところにあった。

 慰安婦問題はしばしば、韓日問題としか考えられていないが、実は冷戦体制とも深く関連している。慰安婦問題が始まった1990年代初頭は、北朝鮮が日本と国交正常化交渉を繰り広げていた時期で、北朝鮮は慰安婦問題を植民地支配に対する「違法賠償」を受けられる好機と考えた。92年、当時挺対協の幹事を務めていた尹美香(ユン・ミヒャン)元代表が、朝日修交交渉で北朝鮮が「戦争犯罪賠償」を受け取ろうとしているとし、「南と北、皆が」「賠償を受け取るに十分な主体力量」だという用語を使用した背景でもある。慰安婦問題運動に深く関与した法律家らもまた、北朝鮮の対日交渉力を意識した。慰安婦問題で補償ではなく「賠償」を受けようと思ったら「違法」でなければならず、まさにそれ故に、どこまでも「国家による強制連行」であるべき構造がそこから始まり、定着した。

 だが当の北朝鮮は2002年の平壌宣言でその主張を引っ込め、経済的補償を受ける方式へと転換した。しかしその後も、尹美香代表など周辺の関係者らは「違法賠償、強制連行」の主張を続けた。この人々が朴槿恵(パク・クンヘ)政権時代の韓日合意に決死反対した理由でもある。

 東アジアの安定と平和のために、私は朝日修交を期待する側にいる。だがその過程で、国家のプライドを満たす手段として慰安婦のハルモニたちは、全く望んでいなかった「性奴隷フレーム」に閉じ込められることになった。そして再び国家に動員され、長い間街頭に立たねばならず、今では多くの方が世を去った。私が『帝国の慰安婦』を書いたのは、その方々が戦争の犠牲者ではなく、植民地支配の犠牲者だという事実を明らかにしたかったからだ。他界されたハルモニたちの冥福を祈り、残るハルモニたちの平安を祈願する。

朴裕河(パク・ユハ)世宗大学名誉教授

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