▲イスラエルとハマスの武力衝突でイスラエル軍の犠牲になったというパレスチナの住民が、遺体収容袋の中に入ったままスマートフォンでメッセージを送っているとして10月末にSNSで拡散された写真。しかし実はこの写真は昨年、タイのハロウィーン仮装大会で撮影されたものだった。/X(旧ツイッター)より

 10月29日から30日にかけて、X(旧ツイッター)などのSNS(交流サイト)では、イスラエル軍による空襲で犠牲になったパレスチナ住民の遺体の一部が、白い布にくるまれた状態で動いたり鼻をかいたりする動画が出回った。

 「アルジャジーラ放送の事前撮影準備」と題するこの動画には、10月7日にパレスチナのテロ組織「ハマス」の奇襲攻撃の後イスラエル空軍の報復攻撃によって死亡したというパレスチナ住民の遺体が、白い布にくるまれて地面に置かれている様子が収められている。しかし、これらの「遺体」のうち何体かは白い布の中で動いており、中には手で顔を触っている様子もみられる。

 そのため、この動画はイスラエル軍による残酷な民間人殺害を誇張するためにアラブ系放送局「アルジャジーラ」が制作した「やらせ動画」だとの疑惑が浮上し、動画はまたたく間に中国・イタリア・インドなど全世界に拡散された。

 インターネット上では「残酷に殺害されたパレスチナの住民たちは、おとなしく横たわる程度の忍耐力もないようだ」(ドイツ)、「法と正義党(PiS=ポーランドの執権政党)のようなハマスが作り出した動画」(ポーランド)、「テレビの撮影中ってことを忘れたのか?」などとからかうコメントが相次いだ。あるネットユーザーは「これは映画の撮影か? そうでなければ何か邪悪なことでもしているのか? 誰か説明してくれ」と書き込んだ。

 この動画は実際には、2018年からイスラエルとハマス間の衝突が起きるたびに「パレスチナのうそ」という名前で頻繁に登場している。18年5月16日にはイスラエルのネットユーザーがツイッターでこの動画をシェアし「パレスチナの殉教者として亡くなっても、鼻はかゆいんだな」と書き込んだ。

 実はこの動画はもともと、エジプトの大学の政治イベントで企画された「模擬遺体」の動画だった。今回のイスラエル軍の空襲で死亡したパレスチナの住民の遺体ではない上、「アルジャジーラのテレビで放映」と言っていること自体がフェイクニュースなのだ。イスラエル軍の蛮行を告発するためのフェイク動画でもなく、そもそもの説明が誤っていたのだ。

 2013年10月にエジプト・カイロのアル=アズハル大学で、イスラム原理主義組織「ムスリム同胞団」に所属する学生らが、同年7月にエジプト軍部に追放されたエジプト大統領ムハンマド・モルシ氏の圧政を批判するイベントとデモを行った。学生らは総長室前の道路を占拠し、モルシ政権時代に殺害されたムスリム同胞団員らの復権を求めて「模擬遺体」を並べるパフォーマンスを行った。これは当時、ロイター通信や英国BBCなどでも報じられた。つまり、もともと偽物の遺体を並べるイベントだったわけで、その趣旨も、ガザ地区の住民の悲惨な状況を告発するという目的とは無関係だったのだ。

 一方、10月27日には、イスラエル軍の空襲によって死亡したガザ地区のパレスチナ住民だという人物が、遺体を収容する袋に入った状態で座って「奇跡的に」スマートフォンでメッセージを送る写真が公開された。そのため、再び陰謀論が駆け巡った。この写真には「死んだ人間がメッセージを送る姿を見たことがあるか。ガザではどんなことも可能なようだ」という説明が付けられていた。

 しかし、この写真も実は、2022年10月にタイで行われたハロウィーン仮装大会で撮影されたものだったという。この写真はその後、「スマホでメッセージを送るパレスチナの犠牲者」というタイトルで、イスラエルとハマスの衝突が起きるたびにSNSに登場している。実際には今回のイスラエルとハマスの紛争とは無関係だ。

イ・チョルミン国際専門記者

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