文在寅(ムン・ジェイン)前政権が2019年12月の大統領訪中などを控え、中国との外交面での懸案を理由に在韓米軍のTHAAD(高高度防衛サイル)の正式配備に必要な環境影響評価の手続きを意図的に延期していたことが19日までに分かった。これら一連の事実関係は「住民の反対で環境影響評価が遅れた」とする文在寅政権のこれまでの説明と矛盾する。文在寅政権によるTHAAD正式配備延期に至る過程が政府の文書で確認されるのは今回が初めてだ。

 韓国国防部(省に相当、以下同じ)が与党・国民の力のシン・ウォンシク議員事務所に提出した「環境影響評価・評価協議会構成時期関連の協議結果に関する報告書」によると、2019年12月3日に青瓦台(韓国大統領府)国家安保室、国防部、外交部、環境部は慶尚北道星州郡のTHAAD基地周辺の環境影響評価を行う評価協議会発足の時期について検討した。文在寅政権は2017年7月、通常1年かかる一般環境影響評価を実施し、その上でTHAAD配備を正式に決めると発表した。2019年3月に米国は環境影響評価に必要な事業計画書を提出したため、その後韓国政府は法律に基づいて政府、住民代表、民間の専門家らで構成する評価委員会をまず立ち上げ、その上で手続きを進めなければならなかった。

 ところがこの報告書によると、上記の会議で出席者らは「12月に計画されている政府高官らによる交流(中国外交部長の来韓、VIP訪中)への影響が避けられない」との理由から「(評価協議会発足の)年内推進は制限を受ける」として延期を検討した。文前大統領は会議から20日以上後の2019年12月23-24日に中国を訪問して習近平・国家主席と首脳会談を行い、韓中日首脳会議に出席することになっていた。韓中両国は当時、2020年の早い時期の習主席来韓に向けた調整も進めていた。会議の出席者らは「中国側は星州基地の環境影響評価手続きをTHAADの正式配備と見なし、さらにこれを韓中両国による従来の約束に反するものと認識して強く反発することが予想される」との見方で一致した。会議で国防部は年内に評価委員会を発足させる方針などを示したが、出席者らは「外交面での懸案などを考慮すると、年内の評価協議会発足は難しい」との結論を下した。

 会議の結果は鄭義溶(チョン・ウィヨン)青瓦台安保室長(当時)に報告され、青瓦台安保室は国防部に評価協議会の構成時期を2020年1月末とする方向で再検討するとの決定を電話で伝えたという。この報告書は会議翌日に国防部軍事施設企画室が国防部長官に提出したもので、今回初めて公開された。

 文在寅政権が評価協議会発足を2020年1月とする方向で再検討したかどうかはこれまで伝えられてこなかった。評価協議会が構成される前の段階となる評価準備書の作成は2019年12月に終了し、国防部は米国側の要請を理由に評価協議会発足目標の時期として2020年5月や2021年2月などを提示した。ところが評価協議会は文在寅政権の任期が終了するまで発足しなかった。与党などは「青瓦台など上からの圧力があった」とにらんでいる。申議員は「住民の反対が理由とする文在寅政権の説明と相反する事実が明らかになった。そのため文前大統領を含め、誰の指示でTHAAD基地の環境影響評価が遅延したかを監査院による監査と検察の捜査で解明しなければならない」と指摘した。

 国防部が2020年7月に作成した「星州基地環境影響評価推進計画報告書」などには評価遅延に対する米国の不満や不安なども記されている。環境影響評価後の手続き開始と終了の時期について、国防部は2020年6月の韓米課長級会議で「時期は特定できない」と説明した。米国は環境影響評価前であっても、韓国電力によるTHAAD基地への商業用電力供給を要請したが、韓国政府はこれを拒否した。その後米国が「レーダー施設だけでも電力供給に必要な工事をさせてほしい」と要請していたことも分かった。基地前で行われていた反対デモのため、米軍はヘリで搬入した燃料を使って移動式発電機を回し、これを使ってTHAADレーダーを稼働させていた。最終的に2020年7月にエイブラムス韓米連合司令官(当時)が韓国国防部に書簡を送り「環境影響評価の遅延は兵士らの生活条件や基地の能力に影響する」とした上で、環境影響評価が早期かつ迅速に行われるよう支援を要請した。

 これら一連の状況は「一般環境影響評価とは関係なく、文在寅政権の5年間にTHAAD基地が正常に運用され、米国が感謝を伝えた」とする文在寅政権関係者の主張と相反するものだ。ある与党関係者は「この文書はTHAAD基地正常化を目指す当時の米国の焦りを示すものだ」とした上で「当時の軍事施設企画官が作成したこの報告書を受け、国防部長官と国家安保室がどのように対応したのか調査が必要だ」と指摘した。

パク・スチャン記者

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