コラム
G7夕食会に出された福島の酒…露骨で不器用な日本式の広報戦略【朝鮮日報コラム】
広島市内のあるホテルで20日夕、会合が開かれた。主要7カ国首脳会議(G7サミット)の議長を務める日本の岸田文雄首相と裕子夫人が主宰する夕食会や社交行事だった。ジョー・バイデン米大統領らG7首脳と尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領ら招待された8カ国の首脳、その配偶者らが参加した。翌21日、日本外務省は20日に提供した料理のリストと共に「日本の食文化の魅力を世界に発信する上で、有意義な機会になった」と自ら評価する報道資料を出した。
夕食会の食事メニューには、12年前の原発事故で放射能危機論が絶えない福島産の日本酒があった。福島県にある酒造会社「松崎酒造」の純米酒「廣戸川」だ。1892年に設立された同社は、福島県の米と水で日本酒を作る。サミット開催地・広島県の日本酒2種と共に提供されたため、海外の人々は福島産だと気付かずに飲んだ可能性が高い。G7広島サミットを取材する記者たちが集まった国際メディアセンターでは福島産の加工食品が提供された。福島産の桃で作ったジュース、福島でくみ上げた天然炭酸水、福島産の日本酒やようかんなどだ。
2年前にも似たようなことがあった。2021年の東京オリンピック時、福島産の食材の安全性PRを目的に、海外の選手たちが利用する選手村の食堂に福島産の食材を供給したのだ。米国や韓国などは当時、選手村の食堂とは別途に給食支援センターを設け、代表チームに食事を提供した。重要な大会を控えている選手たちの不安を膨らませる必要はなかったからだ。
2011年5月の韓中日首脳会談時は、当時の李明博(イ・ミョンバク)大統領と中国の温家宝首相が突然、福島産ミニトマトを「試食させられた」こともあった。東日本大震災の被災者を見舞おうと、福島県内の被災者センターを訪れたところ、日本側にミニトマトやキュウリを差し出されたのだ。海外の首脳たちが笑いながらミニトマトを食べる写真は、日本で大々的に報道された。
日本が福島産農産物を海外の人々にしきりに提供している理由は、自国民に「もう大丈夫だ」と言いたいからだろう。日本人たちも福島産食材を渋っているのが現実だ。東京のある知人は「周りで福島産の米を購入して食べている人を見たことがない」と言った。日本政府は毎年、「健康への影響が確認されないほど低い放射線量の危険をどのように受け入れるか」というアンケート調査を行っている。昨年の調査では約40%が「基準値以下でも受け入れられない」「十分な情報がなく、危険を負うことはできない」と答えた。
日本には「迷惑」を極めて嫌う文化がある。「人に迷惑をかけてはいけない」と小さいころから教え、このような風潮を誇りに思っている。しかし、日本を訪れた重要な客人に日本人も渋る食べ物を出してもてなすのは典型的な迷惑ではないのだろうか。さまざまな国々の首脳たちが福島産の食べ物や飲み物を口に入れたからといって、すぐにこれらに対する認識が変わるはずもない。疎くてあからさまな日本式の広報戦略は、かえって福島産食品の危険性をめぐる議論を浮き彫りにし、逆効果になる可能性が高い。
ウクライナは自国領土内で発生したチョルノービリ(チェルノブイリ)原発事故の名誉回復を国際社会にあえて訴えていない。ほとんどの国の人々は、チョルノービリはロシアのどこかだと考えているほどだ。誰もウクライナ産の穀物を輸入・消費する際に、チョルノービリのことを思いつかない。上手(うわて)なのはウクライナの方ではないだろうか。
成好哲(ソン・ホチョル)東京支局長