▲自由北朝鮮運動連合のパク・サンハク代表が「昨年4月25日と26日に京畿道金浦市から北朝鮮に飛ばした」と主張しているビラ/自由北朝鮮運動連合提供

 文在寅(ムン・ジェイン)前政権当時、韓国統一部(省に相当)が作成した「対北ビラ禁止法」の説明資料に「コロナウイルスが付着した物品を脱北者がばらまいている」との文言が記載されていたが、これは青瓦台(韓国大統領府)の指示によるものだったことが9日までに分かった。「対北ビラを通じたコロナウイルス拡散」については北朝鮮が何度も主張してきたが、この主張に科学的な根拠は全くない。しかしこの種のデマのような内容を韓国政府が韓国駐在の外国大使館などに配布する公式の説明資料に記載していたのだ。

 「対北ビラ禁止法」については国内外で「表現の自由を過度に規制し、北朝鮮の人権改善に向けた国際社会の努力に逆行する」などの懸念が高まっていたが、これに対して当時の文在寅政権は2020年12月18日に説明用の資料を作成した。韓国統一部はこの資料で「一部の脱北者らが新型コロナウイルスを付着させた物品をばらまき、北朝鮮にコロナを広めようと扇動し、これに北朝鮮が強く反発した事例もある」と主張した。

 韓国与党・国民の力の河泰慶(ハ・テギョン)議員によると、統一部が先日河議員の事務所に提出したこの問題に関する書面の答弁書に「統一部が当初準備していた説明資料にその内容(対北ビラによるコロナウイルス拡散)の記載はなかったが、青瓦台安保室など関係先による協議で含まれるようになったことを把握」と記載されていた。つまりウイルス付着関連の記載は安保室の指示で行われたということだ。当時の青瓦台国家安保室長は徐薫(ソ・フン)氏で、徐氏は現在「西海公務員銃殺真相隠蔽(いんぺい)事件」と「亡命漁師強制北送」事件で裁判を受けている。

 韓国統一部の幹部も本紙の電話取材に「当初草案には対北ビラ関連のコロナデマに関する文言はなかったが、後から説明資料に記載された。記載に至る経緯が記録された文書が残っていなかったため、当時の職員から聞き取りを行ったところ、安保室などとの協議で問題の文言が記載されたことが分かった」と明らかにした。この説明資料は韓国駐在の大使館などにも配布されたという。ビラを通じたコロナ感染拡大について韓国統一部の権寧世(クォン・ヨンセ)長官は先月21日の国会外交統一委員会で「科学的な根拠が全くない不適切な内容」と答弁した。感染症の専門家は「ビラの表面に付着したウイルスが北朝鮮にまで生きた状態で飛ぶとは想像し難い」「ウイルスが付着したとしても、風船が上空に飛べば紫外線で死滅する」と説明した。

 対北ビラ禁止法は2020年6月4日に北朝鮮・朝鮮労働党の金与正(キム・ヨジョン)第1副部長が談話で脱北者団体によるビラ散布を激しく非難し、韓国政府に対し「(ビラ散布を)禁止する法律でも作れ」と要求したことから始まった。韓国統一部は金与正氏の談話から約4時間30分後、それまで予定になかったブリーフィングを開き「『対北ビラ散布禁止法律案』を準備中」と明らかにし、翌日当時与党だった共に民主党議員らが関連法案を提出した。この法案は「軍事境界線で拡声器を使って北朝鮮を批判するとか、ビラを散布するなどした場合は3年以下の懲役または3000万ウォン(約300万円)以下の罰金刑に処する」などと定めている。法案は同年12月の国会で成立した。弁護士団体は2020年12月末にこの法律を違憲として憲法裁判所に訴えたが、今の時点で結論は出ていない。

キム・ジョンファン記者

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