▲イラスト=ユ・ヒョンホ

 大谷翔平は記念碑的な選手だ。投手と打者を兼ねる野球選手が両方とも卓越した成績を残すのはベーブ・ルース以来、初めてのことだ。スポーツが高度に発達した今日ではさらに難しいことだ。時速160キロ台の剛速球を投げる先発投手であると同時に、本塁打を量産するクリーンアップでもある超スーパースターが登場し、日本をWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)優勝に導いた事件を前に、全世界の人々が熱狂している。

 「大谷シンドローム」は何も彼の実力だけを言うのではない。全ての人に親切で優しく、真剣に自らを磨く求道者のような姿が、野球ファンを超え一般大衆にも新鮮な感動を与えている。同僚たちが下品な話をすると眉をひそめ、酒は一滴も飲まない。野球選手として活動し、より良い成績を残すためにトレーニングすることが最大の幸せだからだ。「日々足りないものが見える。もっとうまくなれると感じさせてくれる。今もやらなければならないことが多いというのは本当に幸せなことではないかと思う」

 大谷の頭の中には野球しかない。一日中野球をしたり、練習をしたり、野球が上手になるためのトレーニングに励む。他人から見るにはあまりにも面白くなく単純な人生だが、本人は常に充実した幸せの中で生きている。しかし、よく考えてみると、このようなことは何も大谷に限ったことではない。国手として知られるイ・チャンホ九段は「職業が囲碁、趣味も囲碁」だった。一生絵を描いていたアンリ・マティスは晩年、がんによる闘病で筆が使えなくなると、今度ははさみを持って折り紙を切りながら美術作業に専念した。彼らの共通点は明らかだ。自分が愛するある分野にすっかりはまったまま、「没頭」(flow)状態で一生を生きたのだ。

 人はいつどんな状況で一番大きな幸せを感じるだろうか。イタリア生まれの米国人心理学者ミハイ・チクセントミハイが掘り下げた質問だった。彼は被験者にベルと紙を配った。一日のうち任意の時間にベルが鳴れば、自分が何をしているのか、そしてどれほど幸せを感じているのかを記録せよ、というものだった。「経験サンプリング法(Experience Sampling Method)」と呼ばれるこの革新的な研究方法論のおかげで、チクセントミハイは幸せの本質について驚くべき事実を発見することができた。

 「幸せ」という言葉を聞くと、海辺のリゾート地でカクテルを飲みながら、心地よくのんびりと暮らす姿を思い浮かべる。酒、麻薬、セックスなどが提供する快楽におぼれることを幸せと同一視したりもする。チクセントミハイの実験に参加した人たちも、おおよそそのように思っていた。しかし、ランダムに鳴り出すベルに合わせて「私は何をしているのか」「私はどれくらい幸せなのか」という質問を投げ掛たところ、結果は全く違ったものとなった。刹那的な快楽と遊戯におぼれる時、人々はそれほど幸せを感じていなかったのだ。

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