中国で今、犯罪捜査ドラマ『狂飆』=原題=が大ヒットしてブームになっている。先月14日、中国国営「中国中央テレビ」や動画配信プラットフォーム「iQIYI(アイチーイー)」などで放映された後、「見ていない中国人がいない」と言われるほどの人気だ。iQIYIでは視聴率30%を超えて新記録を打ち立てた。主演俳優の名前は中国版ツイッター「ウェイボー(微博)」検索ワード1位になり、1日の再生回数が5億7000万回に達した。中国の貧しい魚屋の男が犯罪組織を率いる企業トップになったが、当局の腐敗一掃により転落していくというストーリーだ。「中国でも最上流層の犯罪をこのようにリアルに描くドラマが出てくるとは思わなかった」といった中国人たちの高評価が相次いでいる。

 珍しいのは、このドラマが中国公安・司法総括機構である中国共産党中央政法委員会の指導で制作されたという点だ。ドラマのタイトル『狂飆』は毛沢東が書いた詩「狂飆為我従天落(革命の力は嵐のように起こる)」に倣っている。せりふとナレーションのあちこちに習近平語録もちりばめられている。ドラマは習近平国家主席の執権前である2000-10年代に発生した犯罪について、現時点である2021年に容赦なく懲らしめるという形で進んでいく。過去の腐敗を習近平時代が清算したというメッセージが込められているのだ。ドラマを見ると、事後検閲でせりふが大幅に変更されているため、出演者のせりふと口の形が合わない部分も少なくない。『狂飆』は犯罪ドラマ形式を取っているが、実際には徹底的に計算されて作られた習近平体制擁護コンテンツだという解釈が出ているのもそのためだ。

 中国は新型コロナウイルス感染症の防疫措置を全面緩和して以降、最大の政治行事である両会(3月4日開幕の中国人民政治協商会議と3月5日開幕の全国人民代表大会)を前に、ブロックバスター(超大作)級愛国ドラマや映画を相次いで公開し、体制宣伝に熱を上げている。先月、中国で興行ランキング1位と2位になった映画は、中国の人工知能(AI)とロボット立国の情熱を描いた『流転の地球2』=原題『流浪地球2』=と外国勢力の一掃をテーマにした『満江紅』=原題=だ。『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を抑えて興行ランキング1位になった『流転の地球2』は前編の『流転の地球』(2019年)同様、中国が地球を救うというプロットをベースにしているが、今回は中国のハイテク技術が大活躍する。米紙ワシントン・ポスト(WP)は「『流転の地球2』には中国が技術的優位性により米国を超えるという野望が込められている」と伝えた。チャン・イーモウ監督の『満江紅』は「岳飛(宋の名将)の精神」で金軍による侵略に対抗して戦う宋の将軍の話だ。映画の副題は『精忠報国(忠誠を尽くして国に報いる)』だ。『満江紅』を見た男性は「抖音(トウイン=中国国内向け動画アプリ・ティックトック)」に掲載した動画で「国のために米国に対抗して戦わなければならないと決心した」と語っている。

 中国がコンテンツに愛国主義をかぶせる方法はいっそう巧妙になっている。中国共産党の理念や中国革命史を露骨に宣伝していたかつての「主旋律(中国共産党・共産党理念宣伝)」映画とドラマはその痕跡を隠し、コメディー(『満江紅』)・犯罪(『狂飆』)・SF(『流転の地球2』)などさまざまなジャンルの大作が増えている。経済メディア「財新」は「中国ドラマは社会の現実を隠さず、そのまま反映するなどレベルが上がった」と報じた。現地エンターテインメント業界の関係者は「中国では有名監督が自身の好きな作品を一つ撮ろうと思ったら、愛国主義作品を一つ先に作らなければならない状況だ」と指摘した。

 中国は今後、愛国コンテンツを集中的に育成し、海外輸出も積極的に試みるものと予想される。中国地方政府や官営新聞などは昨年の中国共産党第20回全国代表大会で初めて登場した言葉「文化自強」を強調している。自らの文化に誇りを持つ「文化自信」を超えて、文化の力を育てる「文化自強」に進まなければならないということだ。「習近平の筆」と呼ばれる李書磊・中国共産党中央宣伝部長は昨年末、人民日報に「文化自強は中華民族の偉大な復興のためのもの」と書いた。中国は自国の文化遺産にストーリーをかぶせる作業も加速させるものとみられる。香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(SCMP)は「中国地方政府では文化遺産広報プロジェクトを推進している」と報じた。

北京=イ・ボルチャン特派員

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