▲ミュージカル映画『英雄』に出てくる1909年10月26日、ハルビン駅での狙撃の場面。/写真=CJ ENM

 映画が始まると、そこは1909年2月のロシアの雪深いシラカバの森。安重根(アン・ジュングン)=チョン・ソンファ=と独立軍関係者らは祖国のために戦おうと誓い、断指をする。その血を集めて「大韓独立」と太極旗に書く。「われわれのときの声が、眠る森を覚ますように/暗いこの世を覚ますはず/忘れまい、きょうを」

 映画『国際市場で逢いましょう』(2014)で観客1426万人を集めたユン・ジェギュン監督が、8年ぶりに戻ってきた。ミュージカル映画『英雄』は、合唱「あの日を記憶して」で始まる。原作は、安重根義挙100周年に合わせて2009年にLGアートセンターで初演されたミュージカル『英雄』だ。ユン監督は、1909年にハルビンで伊藤博文を撃った安重根が、狙撃を図ったときから死刑判決を受けて死を迎える瞬間までの、最後の1年間をカメラに収めた。

 歌と物語。骨格はそのままだが、外見は異なる。ミュージカルが見せることのできない近景と遠景、裏話が目の前で展開する。母親・趙瑪利亜(チョ・マリア)=ナ・ムニ=と家族を残して故郷をたった大韓帝国義兵大将安重根は、ウラジオストクで禹徳淳(ウ・ドクスン)=チョ・ジェユン=、チョ・ドソン=ペ・ジョンナム=、劉東夏(ユ・ドンハ)=イ・ヒョヌ=、マ・ジンジュ=パク・チンジュ=と共に狙撃の準備をする。明成皇后に一時仕えたことのある宮女ソルヒ(キム・ゴウン)は、正体を隠して伊藤博文に接近し、「彼が間もなくハルビンを訪れる」という秘密情報を独立軍に伝えた。闇と雪を貫いて走ってくる汽車に、標的が乗っているのだ。

 独立軍は日本の警察に追われ、同志を失っていく。追撃の場面は張り詰めた緊張感を帯びているが、ギョーザ店で歌う「腹ぺこの青春」は喜劇的な中休みのようだ。ユン・ジェギュン監督らしく、ユーモアのコードは多少子供っぽい。しかし、皆が結末を知っているこの悲劇の重みを減らしてくれる役割を果たしている。同志の葬儀を挙げる教会で安重根が「祖国は一体、われわれにとって何ですか?」と独白するときの様子は、英雄ではなく苦悩する人間を見せてくれる。

 遂にハルビン駅に汽車が到着する。28歳の青年にして3児の父である彼は、歓迎の人波から抜け出し、拳銃の狙いをつける。バン、バン、バン! 伊藤博文が倒れるところで、時間は水あめのように伸びる。だが「大韓帝国万歳!」が聞こえ、恐ろしい法廷の場面が突進してくる。安重根が伊藤博文を狙撃した理由を堂々と明かすときは「誰が罪人か」という合唱がこだまする。趙瑪利亜は息子に死に装束を送り「命乞いをせず、国のためにそのまま死になさい」と手紙を書く。断言するが、このときの母の歌に、涙をこらえることはできないだろう。

 この映画は、今年の年末唯一の韓国産ブロックバスターだ。ジェームズ・キャメロン監督の『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』と1週間違いの12月21日に公開が始まり、正面からの勝負を選択した。113年前のウラジオストクを再現するためラトビアでロケを行い、ハルビンは陜川と平昌のセットで再現した後、視覚特殊効果(VFX)で形にした。歌は大部分、ライブで収録した。ミュージカルの舞台を踏んだ俳優チョン・ソンファの歌唱力と演技力はもちろん、画面いっぱいの安重根のクローズアップと対面できる。

 『英雄』は、胸の熱くなる実在の人物の物語だ。国を失った暮らしがどういうものか、見当をつけるのは難しいが、この映画はその悲劇を間接体験させてくれる。一部の場面では心臓が早鐘を打つだろう。2014年のセウォル号事件直後、『バトル・オーシャン 海上決戦』と李舜臣(イ・スンシン)が国民的無力感に染み入ったように、梨泰院雑踏事故を経験して英雄が恋しい時期という点は、ヒットの後押しになるとみられる。ただし、一般の観客がミュージカル映画の異質さを克服できるかどうかは未知数だ。

 安重根の首に縄がかけられる最後の瞬間、観客も息が止まる。死を超越するこの場面で安重根が歌う名曲「丈夫歌」は「丈夫が世に生まれ/大きな志を抱いたのだから/死すともその志を忘れまい/天に向かって誓ってみる」と続く。映画が終わっても耳に残り、忘却から覚めさせるメロディーだ。安重根の遺体はまだ韓国に戻ってきていない。未来を変えてくれる英雄を待ちながら、肝心の、こんにち韓国をかくあらしめてくれた英雄のことは忘れていた。

朴敦圭(パク・トンギュ)記者

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