▲サムスンのアイソセルビジョンの基本イメージ/サムスン電子提供

 サムスン電子が2020年に打ち出した3D(三次元)飛行距離測定(ToF)イメージセンサー「アイソセルビジョン」が最近、製品リストから消えたことが確認された。拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、クロスリアリティー(XR)の浮上を受け、サムスン電子もそれら分野の必須の半導体である3D ToFセンサー市場に挑戦したが、最大顧客であるサムスン電子のスマートフォンブランド、ギャラクシーに採用されず、事業が大きく縮小したとみられる。

 電子業界によると、サムスン電子が生産する半導体製品と事業が閲覧できる「サムスン半導体ウェブサイト」のイメージセンサーのリストから3D ToFセンサーが含まれる「ビジョンセンサー」項目が消えた。イメージセンサーのリストに残っているのは「モバイル」と「オートモーティブ(自動車関連)」だけで、それぞれ「アイソセル」と「アイソセルオート」を主力としている。韓国語サイトだけでなく、グローバル・各地域のサイトでも同様に削除された。

 ただしインターネット検索サイトで「アイソセルビジョン」を検索すればヒットするページもある。公式ウェブサイトからは項目を削除したものの、個別のページを削除できなかったものと考えられる。サムスン電子側は「製品リストから削除したのは事実だが、事業は持続中だ」としながらも、現在の顧客や応用先は明らかにできないとした。業界関係者は「中国のスマートフォンなどに限定的に供給されているとみられる」と話した。

 3D ToFセンサーはカメラで物体に光を当てて反射して戻ってくるまでの時間から距離を測り、それに基づき3Dデジタル映像をつくる技術だ。メタバースプラットフォームで仮想空間を実際とほぼ同じように再現するのに重要な役割を果たす。スマートフォンの生体測定やゲーム、自動運転車など、さまざまな分野でも活用が予想される。

 市場の成長性は有望だ。市場調査会社ヨプデベロップメントによると、3Dセンサー市場は20年の約65億ドルから23年には80億ドルに成長する見通しだ。さらに年平均14.5%成長し、26年には150億ドル(約21兆4650億ウォン)まで市場規模が拡大すると見込まれる。同市場でモバイルの割合は46%、自動車分野は22%だという。

 サムスンのシステムLSI事業部が開発した3D ToFセンサー「アイソセルビジョン」がうまく開花できなかった背景には、サムスンMX(モバイル経験)事業部がスマートフォンのギャラクシーに同センサーを採用することに否定的だったためだ。業界関係者によると「サムスンMX事業部は3D ToFセンサーがない現在のカメラシステムでも消費者が満足しているとみている」と言った。

 サムスン電子は2019年第1四半期に発売した「ギャラクシーS10」に3D ToFセンサーを初めて採用した。続いて「ギャラクシーノート10」「ギャラクシーS20」などにも搭載範囲を広げた。同センサーの採用で、関連モジュールを供給する外部企業の数も増えたという。当時3D ToFセンサーは主にソニーから納品されていた。サムスンシステムLSI事業部はそれを内製化するために「アイソセルビジョン」ブランドを創設し、製品を発売した。

 サムスンMX事業部は20年秋ごろに発売した「ギャラクシーノート20」からカメラへの3D ToFセンサー搭載をとりやめた。当時AR市場が思ったほど成長しなかったため、活用度が低いと判断した格好だ。しかし、ほぼ同時期にアップルがiPhone12に3D ToFセンサーを採用したため、サムスンも再搭載を検討したが、最終的に実現しなかった。ちょうどグーグルがToFがなくてもAR機能を使えるデプス(深さ)アプリケーションインターフェース(API)を開発して配布したこともセンサー不採用の背景になった。

 結果的にサムスンシステムLSI事業部が開発した3D ToFセンサーの事業は支障を来すことになった。最大顧客が採用してくれなければ、採算が取れないことが主な理由だ。積極的に事業に参入する理由がなかった。業界関係者は「ウェブサイトでの紹介が削除されたということは、製品を積極的に販売する意思がないと受け止められる。スマートフォン需要が減少しているとしても、サムスン電子は年間2億台以上のスマートフォンを販売しており、そこに採択されるかどうかが事業性の分かれ道だったのではないか」と話した。

パク・チンウ記者

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