国際総合
石炭不足の中国から和解の手…豪「まずは制裁解除せよ」(前編)
シンガポールで開かれていた第19回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)が閉幕した6月12日、中国の魏鳳和国防相とオーストラリアのリチャード・マールス国防相が夕食を兼ねて1時間にわたって会談した。
一見するとありきたりだが、両国間の閣僚級会談が開かれたのはほぼ3年ぶりだった。2020年4月にオーストラリアのスコット・モリソン首相が新型コロナの起源に関する国際調査を求めて以降、オーストラリアとの高官級接触を断ってきた中国が、多国間外交の舞台を利用して再びオーストラリアとのコミュニケーションに乗り出したのだ。
■変化した中国、閣僚級会談を再開
1カ月後の7月8日には、20カ国・地域(G20)外相会議が開かれたインドネシアのバリ島で、中国の王毅外相とオーストラリアのペニー・ウォン外相が会談を行った。この席で王毅外相は「過去数年間、両国関係が困難だったのは、中国を脅威と見なして無責任な発言を継続したオーストラリアの前政権のせいだった」とし「両国関係が正常な軌道に復帰することを望む」と発言した。ただし、関係回復の条件として「中国を敵ではなく協力相手と見なすこと」「第三者(米国)に振り回されないこと」など4点を要求した。
今年5月にオーストラリアの総選挙で労働党が勝利し、政権交代が実現すると、中国は閣僚級会談を再開するなど和解の手を差し伸べた。「中国を敵対視する政策を変えない限り、閣僚級対話はない」として連絡すら受け付けなかった中国が、自ら態度を変えて関係改善に乗り出したのだ。
前任のスコット・モリソン首相時代、両国関係は最悪だった。オーストラリアは2018年、安全保障を理由に5G通信網構築事業からファーウェイを排除したのに続き、2020年には新型コロナの起源に関する国際調査を求め、米国が提起した「中国責任論」に加勢した。
中国はこれに腹を立て、オーストラリア産の石炭や銅、木材、ワイン、タラバガニなどに対する輸入制裁を発動し、アンチダンピング関税を賦課するなど経済報復に乗り出した。中国への貿易依存度が35%に達するオーストラリアの弱点を突いたのだ。
しかしオーストラリアは、中国の経済報復にもかかわらず、2021年には対中けん制のため米日印豪4カ国の安全保障会議体クアッド(QUAD)に加入し、米英と共にオーカス(AUKUS)同盟を締結するなど、反中の動きを止めなかった。新たに発足した豪労働党政権も、安全保障分野は前政権の政策をそのまま継承するとの立場だ。
■党大会を前に停電問題の再燃を懸念
西側諸国のアナリストは、オーストラリアの対中政策に大きな変化がない状況で中国の方から和解の手振りをしてきた理由を「石炭」に求めた。
中国は昨年7月から秋にかけて、石炭供給不足により東北部をはじめ全国およそ20の省市(省および直轄市)で大規模な停電が起きた。住民生活の不便はもちろん、工場の稼働まで止まり、経済に大きな打撃を与えた。オーストラリアに打撃を与えるための経済報復が、逆に自分の足を引っ張る形になったのだ。オーストラリア産の石炭に対する禁輸措置が出る前、2019年に中国が輸入したオーストラリア産の石炭は7689万トンに達し、中国の石炭輸入量の26%を占めていた。
今年は、ウクライナ戦争で事情がさらに急迫した。欧州連合(EU)が今年4月、ロシア産石炭の輸入禁止に合意したからだ。中国はこれまで、インドネシア産の石炭の輸入を増やすことでオーストラリアの石炭の空白を埋めてきたが、今ではインドネシア産の石炭を巡って欧州諸国と購入競争を繰り広げなければならない羽目になったのだ。
今年10月と11月、習近平主席の任期継続が懸かった中国共産党第20回党大会が開かれることも負担だ。任期継続を前に全国的な停電が再発するという最悪の事態を迎えかねない状況だ。
中国は、国内の石炭生産を大幅に増やし、オーストラリア産石炭の禁輸措置を解除する案を検討するなど、総力戦に乗り出している。
ブルームバーグ通信は7月14日、内部消息筋の話を引用して「中国政府機関の実務陣が、2年近く続いてきたオーストラリア産石炭の輸入禁止措置を解除する案を最高位層に報告した」と報じた。EUのロシア産石炭制裁で石炭供給に支障が生じており、停電問題が繰り返されないようにオーストラリア産石炭の輸入の道を開くべきだというのだ。
関連機関の国務院国家発展改革委員会(発改委)は公式な立場を打ち出してはいないが、中国の石炭輸入業界でも「オーストラリア産石炭への禁輸措置はじきに解ける」といううわさが聞かれる-と中国の国内メディアは伝えた。
崔有植(チェ・ユシク)東北アジア研究所長