社会総合
「20代男性は権威的」「女性差別は存在しない」、男女対立をあおる韓国政界
【韓国ジェンダーリポート2022】〈第11回〉
韓国大統領選挙を6日後に控えた3月3日、「2番男」と「1番男」という単語がオンライン・コミュニティーを通じて拡散した。2番男とは、候補者番号2番の尹錫悦(ユン・ソンニョル)候補(国民の力)に投票する20-30代の男性を指す言葉で、李在明(イ・ジェミョン)候補(共に民主党)の支持者は2番男を「権威的な若者」「韓男虫(韓国男性虫)」などと定義した。民主党のソン・ヘウォン元議員は、フェイスブックに「2番男のための瞑想(めいそう)」という映像を掲載した。「1番を選択すれば多くの女性があなたに好意を寄せるだろう」という内容だった。
男女の対立は、今や政界が票集めのために政略的に利用する素材となった。この過程で男女の対立はさらにあおられ、より鮮明になる。政界の「男女分断」は20代の男女の政治性向が相反するということが明らかになり始めた2018年から始まった。文在寅(ムン・ジェイン)大統領(当時)に対する20代男性の支持率が低下すると、柳時敏(ユ・シミン)元盧武鉉(ノ・ムヒョン)財団理事長は同年12月、ある講演で20代男性に対し「あなたたちはサッカーもしなければならないが、女性たちはサッカーを見ない。あなたたちはロール(ゲーム、リーグ・オブ・レジェンド )もしなければならないが、女性たちは勉強する」とし、競争で不利という認識を持っている、と表現した。民主党のソル・フン議員は、20代男性による文在寅政権への支持率が低いことについて、「同年齢層が学校教育を受けた時代が李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クンヘ)政権時代だ。当時まともな教育ができただろうか」と反問した。
「国民の力」寄りの政治家たちは、文在寅政権が「女性優遇政策」を展開したことで男女を分裂させた、と主張する。昨年4月のソウル市長補欠選挙の出口調査で、20代男性の72.5%が「国民の力」の呉世勲(オ・セフン)候補を支持したことが明らかになると、同年5月に党代表選挙に出馬した李俊錫(イ・ジュンソク)氏は「最近論議を呼んでいる割当制(比例代表選挙の候補者の一定割合以上を女性とする法律の条文)などは、従来の『パイ』を女性と男性で分けるようなものであり、相当な不公正を引き起こしかねない」と主張。20代男性らの支持を引き出そうとした。
大統領選挙では、与・野党共に男女の対立を票集めの手段として利用した。「国民の力」の政治家たちは、女性家族部(日本の省庁に相当)を「男女対立を助長する省庁」と指摘し、廃止を主張。20-30代男性の支持を訴えた。大統領候補一本化のための「国民の力」党内選挙に出馬した柳承敏(ユ・スンミン)、ハ・テギョン候補は、女性家族部の廃止という公約を掲げ、男性たちが逆差別を受けていると主張した。尹錫悦候補は大統領選候補に選出された後、「女性家族部の廃止」という公約を掲げた。「これ以上、構造的な性差別はない」とも言及した。英ロイター通信は3月、尹錫悦大統領が当選した直後、女性家族部の廃止という公約に触れ、韓国のジェンダー戦争を選挙公約として利用するという決定」だったと評した。
一方、「民主党」は、女性を家父長制の被害者として挙げ、「国民の力」を男性の立場に立って分裂を引き起こす勢力と定義。攻勢を強めた。李在明大統領選候補は昨年9月、女性紙へのインタビューで「男女関係も一種の階級」とし、「労働と資本の関係」に例えた。かと思えば、李候補は「狂気のフェミニズムを止めてほしい」という書き込みを共有する一方で、フェミニズム性向のインターネット・メディア「ドット・フェイス」のインタビューに応じるとしたものの、一時保留とするなど、あいまいな立場を示し、批判を浴びた。米ワシントン・ポストは、韓国の大統領選挙について「韓国のフェミニストたちが性差別主義的なバックラッシュ(反動)に対抗し、戦っている」と述べた。
国会女性家族委員会のチャ・インスン元チーフ専門委員は「20-30代は性に対する平等意識が高まった世代だが、政界が彼らをミスリードしている」と批判した。英国のザ・タイムズ記者だったマイケル・ブリン元ソウル外信記者クラブ会長は「政治家たちは、ジェンダーに対する話題が『商売』になると考えているため、これを拡大再生産している」と書いた。ソウル大学のキム・ギョンボム教授は「政治は男女感情の争いを利用して互いに傷つけ合うのではなく、むしろ治癒されなければならない」とした上で「政治は、ジェンダー対立を解決すべき最優先課題として格上げし、論議していく役割を果たさなければならない」と促した。
〈特別取材チーム〉金潤徳(キム・ユンドク)週末ニュース部長、キム・ヨンジュ社会政策部次長、卞熙媛(ピョン・ヒウォン)産業部次長、キム・ギョンピル政治部記者、ユ・ジョンホン社会部記者、ユ・ジェイン社会部記者、ユン・サンジン社会部記者