文在寅(ムン・ジェイン)政権当時の統一部(省に相当)が、いわゆる「脱北漁師強制送還」事件の際、国連軍司令部に対し「赤十字」名義の協力要請文書を送る一方で、当の赤十字側にはこの内容を通知していなかったことが2日までに分かった。通常は、亡命を希望しない北朝鮮の住民を人道的見地から北朝鮮に引き渡す際、赤十字の職員が同行する。そのため、文政権が漁師を北朝鮮に強制送還する際、あたかも人道的な送還であるかのように見せかけて国連軍司令部を欺いたのではないかと指摘する声が上がっている。

 与党「国民の力」で事件の実態調査に取り組むタスクフォース(TF、作業部会)の団長を務める同党の韓起鎬(ハン・ギホ)議員によると、統一部は事件前日の2019年11月6日、「赤十字 前方事務所長」名義の板門店出入り協力要請を、国連軍司令部の軍政委秘書長宛てに送った。統一部の当局者はこれについて「追放や強制送還に関する内容は明示されていなかった」と説明したが、名義人となっている赤十字側は、漁師強制送還事件に関する内容を事前に知らされておらず、事件の後も一切説明されなかったという。

 韓議員側はこれについて、統一部が国連軍司令部を欺くためにしたことだと指摘し「強制送還を人道的な送還に見せかけ、板門店を通じた引き渡しを許可させた」と主張した。当時、強制送還の現場には赤十字の職員ではなく警察特攻隊が同行し、国連軍司令部側は、縄で縛られて目隠しされた北朝鮮の漁師たちの姿を見て、難色を示したという。国連軍司令部は、このような非人道的な送還の支援を5回にわたり拒否したと伝えられている。

 統一部はこれについて「慣例に倣って国連軍司令部に『赤十字 前方事務所長』名義の要請文を送ったものだ」とした上で「赤十字社に伝えるような性格のものではなく、前例のない送還だったため、通知しなかった」と説明した。

チュ・ヒョンシク記者

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