萬物相
【萬物相】二つの顔を持つサウジアラビア皇太子
2019年10月、サウジアラビアの首都リヤドで行われた男性アイドルグループBTS(防弾少年団)のコンサートは「サウジアラビアの変化」を実感させた。一日5回コーランの経典を読む都市にK-POPが響き渡り、会場に集まった若い男女3万人が熱狂した。フラッシュライトをつけたスマートフォンを振って、韓国語のコールやウエーブで応えるイスラム教徒のARMY(アーミー=BTSファン)は西側の若者たちと変わらなかった。このBTS公演を実現させた立役者はサウジアラビアの次期国王として浮上しているムハンマド・ビン・サルマン皇太子(ムハンマド皇太子)だ。
サウジアラビアの王位は今まで兄弟の相続により継承されてきた。第7代のサルマン・ビン・アブドゥルアズィーズ現国王(サルマン国王)も同じだ。振り返ってみると、王位継承者は一様に高齢だった。サルマン国王が80歳で即位した2015年、副首相も既に60歳を超えた異母弟ムクリン元皇太子だった。だが、サルマン国王がムクリン元皇太子を追い出し、32歳の息子であるムハンマドを皇太子に冊封し、兄弟間の相続という慣行を破った。
若い後継者のムハンマド皇太子は改革の君主の道を宣言した。2014年に国際原油価格暴落に見舞われ、石油に依存してきた統治のリスクを悟った。経済・社会・文化に大々的に手を入れる「ビジョン2030」の青写真を提示し、紅海自由観光地区や、ソウルの44倍に達する未来新都市計画などを打ち出した。農業改革にも着手し、砂漠には円形農場数千カ所が作られた。女性の運転や男女同席を認めるなどの変化もすべてムハンマド皇太子によるものだ。K-POPのようにサウジアラビアのポップスを育成する計画も立てた。仁川-リヤド直行便も年内に就航する予定だ。
おととい英国で終わった「LIVゴルフ」大会もムハンマド皇太子が管理するサウジアラビア公共投資基金が資金を支援し、文字通りお金をつぎ込んだ。優勝賞金400万ドル(約5億4000万円)のほか、最下位でもそれなりの韓国国内のゴルフ大会の優勝賞金に当たる12万ドル(約1600万円)を受け取れる。米プロゴルフ協会(PGA)が享受していた中継権収入とゴルフ産業主導権を狙ったのか、全世界の放送局に今年の大会の無料中継を許可した。ムハンマド皇太子の実績作りだとの見方があるのも、このためだ。
しかし、改革者であるムハンマド皇太子には、残酷な絶対君主というもう一つの顔がある。権力掌握の妨げになる王族を不正腐敗容疑で排除したり、サウジアラビア王家に批判的だったジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏を暗殺したりした疑いも持たれている。バイデン米大統領がこれを批判すると、ロシア・中国とのエネルギー・軍事協力を強化した一方で、米国の石油増産要請は拒否した。原油価格上昇とインフレーションを受けてバイデン大統領はサウジアラビアとの関係を改善すると表明した。しかし、BTSに熱狂するサウジアラビアの若い世代がムハンマド皇太子のリーダーシップをいつまで容認できるのかも気になる。
金泰勲(キム・テフン)論説委員