話題の一冊
「親日清算を叫ぶ南の政権、抗日パルチザンを称揚する北の政権と驚くほど似ている」(下)
■「無能で怠惰な両班リーダーシップと決別した朴正煕」
-朴正煕(パク・チョンヒ)大統領はどうか?
「彼の政権が『革命』であるにせよ『クーデター』であるにせよ、朴正煕のリーダーシップは、文化的な観点から見ると『革命的』だった。朴正煕が掲げた『豊かに生きてみましょう』『働く政府』といったスローガンは、富の蓄積を罪悪視して成功者を卑しく扱った朝鮮王朝時代の両班リーダーシップとの決別だった。朴大統領は『株式会社韓国』(Korea, Inc.)の創業者にしてCEO(最高経営責任者)だった。彼は、無能で怠惰な両班の理念で自由な経済活動を妨害してきた儒教文化を払いのけた」
-「経済民主化」はどうか?
「儒教的経済観は、民主化運動を繰り広げた政権になるたびに増幅してきた。初代文民政権の金泳三大統領が、既に『持つことが苦痛になるようにしたい』『お金のある者が権力まで握っては駄目だ』と、富める者をたたいた。文在寅大統領は2020年の6・10民主抗争記念演説で『平等な経済は私たちが必ず実現すべき実質的民主主義』だと語った。正義と道徳、均分を核心価値とする朝鮮王朝後期の両班社会と何が違うのか?」
■「『士農工商』に後戻りする文在寅政権」
キム博士は「文在寅政権の5年間、公務員の待遇は良くなり、公務員試験を受ける人が急増する反面、起業家精神と起業家の士気は大きく衰退した。こういった現象もまた、朝鮮王朝後期の『士農工商』観念が、どの政権のときよりも強く投影され表出した結果」と語った。
-著書で「韓国の民主主義は『天命』と『民心』を掲げた朝鮮王朝後期の性理学者らの世論政治をそのまま受け継いでいる」と指摘したが。
「そうだ。韓国の民主主義の特徴は、集団的存在として国民が法の上に存在するという点だ。これは、人々が『法』の支配を受け、『国民』の直接的支配を受けない大多数の民主主義社会とは大きく異なる。英国のジャーナリスト、マイケル・ブリンが指摘したように、韓国社会では『国民たち』が怒ったら、公正な法的手続きや客観的な証拠、弁護や人権なぞ重要ではなくなる。『国民』は『野獣』に変わり、法を実行する人々は野獣に服従する」
■「国民が神の韓国は新両班社会」
キム博士は「ブリン氏の表現のように、韓国は『国民を神として仕える社会』だ。これは、諫官(かんかん)とソンビ(文士)を通して形成された公論は君王たりとも服従すべき『天命』であって『民心』だ”という朝鮮王朝後期の両班社会の再版だ」と語った。
-西欧民主主義国はどうか?
「西欧市民社会において、世論は政治行為で参考にする要素というだけで、絶対的な命令や指針ではない。米国では、ニクソン大統領が弾劾訴追されて1974年8月に辞任するまでのおよそ2年間、事実(fact)関係についての厳正な捜査が行われた。しかし朴槿恵(パク・クンへ)大統領は、ろうそくデモが始まってからわずか数週間で国会で弾劾が可決され、それからわずか3カ月で憲法裁判所が満場一致で弾劾を認めた。国民の即興的な判断は無条件に公正で、信頼できるものなのか?」
■「『批判的思考』ができる個人が全体主義独裁を防ぐ」
-韓国が「新両班社会」に向かって進み続けるとしたら、どんな結果が起きるだろうか?
「法治の崩壊にとどまらず、思想・言論の自由の消滅、権力の中央集権化が深刻化するだろう。正義と道徳を独占した少数の特権層が全体を治める北朝鮮・中国・ロシアのような独裁的全体主義が韓国でも起きかねない。そうなると、経済的な成果は徐々に消えていき、国民は再び貧しくなるだろう」
-こうした流れを食い止めるには何が必要か?
「高度の分業化が進んだ産業社会の韓国において、農村共同体意識に基づいた新両班社会は旧時代の遺物であって、幻想だ。韓国社会が市民社会に発展するためには、世論に振り回されず、自分なりに考える批判的思考(critical thinking)能力を持った個人が多くならなければならない。そうでないと、選挙で1人が1票の投票権を持つ民主主義は何の意味もなくなるだろう」
宋義達(ソン・ウィダル)先任記者