▲原告の川崎栄子さん(80)らが東京地裁前で北朝鮮と金正恩国務委員長を糾弾する横断幕を掲げている。/崔銀京特派員

 「北朝鮮は地上の楽園」だといううその宣伝にだまされて北朝鮮に渡り、数十年間の苦しみを味わった在日同胞北送事業(帰国事業)の被害者が北朝鮮政府を相手取り起こした損害賠償訴訟で、原告敗訴の判決が下された。ただ、裁判所は北送事業に関する北朝鮮政府の責任を初めて一部認めた。

 

 東京地裁は23日、川崎栄子さん(80)ら北送事業で被害を受けた脱北者5人が北朝鮮政府を相手取り、総額5億円の損害賠償を求めた訴訟で、請求を退ける判決を下した。原告が起こした訴訟が法理的に成立しないとの判断だ。訴訟費用についても、原告に全額負担を命じた。

 川崎さんらは1959年から84年まで日本で行われた在日同胞北送事業を北朝鮮による計画的な拉致・誘拐犯罪だと規定し、2018年12月に北朝鮮政府の責任を問う訴訟を起こした。同年4月に北朝鮮で抑留された後、米国に送還されて死亡した大学生オットー・ワームビアさんの両親が米国で北朝鮮政府を提訴したことに影響を受けた裁判だった。日本国内での差別と貧困を避け、北朝鮮に渡った在日同胞とその家族は9万3000人余りに達する。

 裁判の争点は国際法で確立された「主権免除」の原則と請求権の消滅時効だった。主権免除は各国の主権は平等であり、国家の行為が外国の裁判所で被告として裁かれることはないという原則だ。東京地裁は虚偽の宣伝に対する北朝鮮の責任を認めた上で、「主権免除が適用される事案ではない」と明確に判断した。北朝鮮は日本が承認した国家ではないため、主権免除の原則も適用されないとの趣旨だ。

 しかし、東京地裁は被害者が損害賠償を請求する権利は消滅したと判断し、訴訟を却下した。北朝鮮と在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)による虚偽宣伝にだまされ、北朝鮮に渡ることを選んだのが46-48年前であり、損害賠償を請求できる期間が経過したとの判断だ。原告はその点を懸念し、北朝鮮が出国を禁止し、脱北後も家族と会うことを妨害するなど不法行為が数十年続いたと強調したが、東京地裁は出国妨害などは日本国外で起きたもので、連続した行為とは見なせず、日本の司法機関による管轄権もないと判断した。北朝鮮政府の責任を認めながらも、損害賠償の請求権は消滅したという判断について、一部からは「北送事業を事実上黙認した日本政府を意識した判決ではないか」との受け止めも聞かれる。

 判決を受け、これまで3年以上訴訟を主導してきた川崎さんは原告席に顔をうずめてしばらく起き上がれなかった。続く記者会見では涙も流した。原告側の弁護士は今回の裁判で北送事業に対する北朝鮮政府の責任が初めて一部認められた点を強調し、控訴する意向を表明した。北朝鮮は今回の裁判は完全に無視している。昨年10月に続き、今回の公判でも被告人席は空席のままだった。

東京=崔銀京(チェ・ウンギョン)特派員

ホーム TOP