ノーベル化学賞の有力候補として名前が挙がっていた米国の科学者が中国の「千人計画」から研究費の支援を受けていた事実を隠し、刑務所行きとなる危機に追い込まれている。千人計画とは中国政府が2008年末から海外の高級人材を自国の大学や国有企業に誘致することを目的に、海外の有名な科学者や自国の留学生を対象に中国での定着に必要な費用や研究費などを大々的に支援したプロジェクトだ。

 米ニューヨーク・タイムズ紙は21日(現地時間)、千人計画に参加した事実とその見返りに受け取った研究費などについて虚偽の報告を行ったハーバード大学のチャールズ・リーバー教授に対し、この日ボストンの連邦裁判所陪審員団が有罪の評決を下したと報じた。

 リーバー教授はハーバード大学化学・化学生物学部の学部長だった2015年、人体に挿入可能なほど小型で柔軟性のある電子チップを開発した。視覚障害者の視力を回復させ、手足が不自由な障害者にはその機能を取り戻すなど、「将来のバイオ電子医学に革新をもたらした」として高く評価されていた。

 リーバー教授はこの研究で「スター科学者」となり、ノーベル化学賞候補にも名前が挙がったが、2018年に米国で制定された「チャイナ・イニシアチブ」に足下をすくわれた。これは最新技術などの重要な情報が中国政府に流れるのを阻止するための知的財産権に関するスパイ防止法で、中国に情報を提供あるいは中国から研究費の支援を受けた事実を報告しなかった場合は最大で5年の懲役刑となる。

 リーバー教授は2011年に武漢理工大学(WUT)との共同研究プロジェクトに参加し、3年にわたり千人計画のメンバーとして毎月5万ドル(現在のレートで約570万円、以下同じ)の給与と15万ドル(約1700万円)の定着費を受け取った。リーバー教授が参加した武漢技術大学ハーバード共同ナノテクノロジー研究所は総額150万ドル(約1億70000万円)を研究費として受け取っていたことも分かった。リーバー被告は2008年からこの契約を締結する時まで米国防総省と米国立衛生研究所(NIH)から研究費として総額1800万ドル(約21億円)の支援も受けていた。

 リーバー教授は捜査を受けた際、国防総省と国立衛生研究所に千人計画への参加を否定する虚偽の報告をしたことが違法とされた。千人計画に参加した理由についてリーバー教授は「科学者であれば誰でもノーベル賞を受賞したいはずだ」「私も自分の業績が認められたかった」と説明している。千人計画への参加を報告しなかったことについては「逮捕されると思って怖かった」と述べた。米国の科学者の間では「チャイナ・イニシアチブ」について「スパイ行為ではなく単にうそを処罰する法律になった」などの批判も出ている。今回の事件以前にも10人以上の研究者がチャイナ・イニシアチブに違反したとして起訴されたが、いずれも公訴が棄却あるいは免訴判決を受けたからだ。

ナム・ジヒョン記者

ホーム TOP