社会総合
「妊婦検診に行きたいので救急車をお願いします」
「妊婦の健康診断のための病院への移送や帰宅のサポートは、本当に救急車がするべき仕事でしょうか」
先月、韓国大統領府の国民請願(苦情・提案)掲示板に自称「119救急隊員」という市民がこうした書き込みを掲載した。「単純な妊婦の搬送支援サービスのせいで救急車が足りなくなり、他の管内の救急車が15-20分もかけて現場に向かっている」とし「救急患者を生殺しにするこうした政策を阻止してほしい」とつづった。請願には11月5日までに約2300人が同意した。
少子化防止の名目で忠清南道、慶尚北道、慶尚南道など多くの地方自治体が救急車を非救急状態にある妊婦の健康診断、乳幼児の予防接種などに活用したことで、現場で「救急の空白」が生じていると指摘する声が上がっている。こうした政策は、出産前後の陣痛や出血のような緊急事態だけでなく、妊婦・乳児の定期検診、予防接種にも救急車を支援するものだ。忠南道・慶北道は昨年、道全体で当該政策の施行に踏み切り、仁川広域市、慶南昌原市は今年から行っている。電話で申請すれば救急車が家の前までやって来て病院に連れていき、検診が終わるのを待って帰宅させる。
当該自治体は「少子化克服のための出産奨励施策」と広報している。忠南道では昨年、妊婦の救急車利用および相談要請が6049件あり、このうち2496件(41%)が非救急状況の診療・予防接種・帰宅などの目的だった。こうした地方自治体の行政に消防が半強制的に動員されたことで、救急患者のための「ゴールデンタイム」を逃してしまう恐れがある、と専門家たちは口をそろえる。
実際の現場では「救急の空白」が生じている。通常は、地域119安全センター1カ所につき、救急車は1台が配進める備されている。もし、妊婦検診に救急車が使用される場合、さらに遠い所にあるセンターの救急車が代わって出動を迫られることになる。従来の業務に空白が生じないよう妊婦用救急車(1台)と専門スタッフ(2人)を別途に編成したのは仁川市だけだ。忠南道は妊婦用救急車と人員を増員したが、各消防署でも救急車1台を妊婦移送と従来の業務とに並行させている。一部の消防本部は、当該自治体の区域外にある遠い病院にも、妊婦を移送している。
忠南道のある消防署職員は「今年初め、ソウルのある病院に妊婦を搬送したことがあるが、行ってみたところ丸1日かかった」とし「病院の診療に1時間以上を費やした場合、帰宅は支援しなくても構わないという指針があるが、現実的には苦情が入ることに対する懸念から実行するのは難しい」と話す。慶北道の救急隊員は「妊婦の利用は予約制であるため、ほとんどの場合、救急ではない」とし「終日出動しているため人手不足で、他の救急患者を見逃してしまうのではないかと心配になる」という。別の隊員は「妊婦の中には救急車に乗ることを謝罪する人もいれば『金がかからなくてラッキー』と言う人もいる」と、さまざまな反応があることに触れた。
こうした問題点が発生したことから、京畿道や釜山市など一部の自治体は妊婦移送サービスの施行を廃止した。
このような懸念に対して忠南道の関係者は「道政課題の第1番目が少子化問題であるため、開始したサービス」とし「(救急患者の被害については)消防本部が答える内容」と述べた。ソウル市広津区、江東区、蘆原区などは代案として妊婦や乳児の養育家庭にタクシー利用券を配布する政策を施行中だ。
ウソク大学消防防災学科のコン・ハソン教授は「近くのセンターから救急車が代わりに出動するやり方では、出動の空白を埋められない」とし「地域の出産環境などに応じて制度導入は慎重に進める必要性がある」と説明する。また、東義大学消防防災行政学科のリュ・サンイル教授は「見せかけの行き過ぎたサービスでは、緊急出動に支障を来しかねない」と指摘した。
イ・ヨングァン記者